パラダイス、虹を見て。
 車が停まると。
 全員、車から出た。
「ここからは、車で行けないので。俺はここで待ってます」
 イナズマさんが言うと。
 ヒサメさんは「わかった」と頷く。
「サクラも俺と留守番だからな」
 ニヤリとイナズマさんが笑うと。
 サクラはため息をついた。
「昨日の続きからはじめっからな」

 結局。
 私はヒサメさんと2人で家を目指すことになってしまった。
 住んでいた家は山の中にあるので。
 かなり険しい道のりを歩かなければならない。
 住んでいた頃は慣れていたけど。
 今、歩いてみると。
 危ないなあ…と思った。
 ヒサメさんは息を切らしながらも。
 軽快に歩くので、運動神経良いんだなと思った。
 もしかしたら、サクラだったら歩けなかったかもしれない。

 黙々と一時間近く歩くと。
 集落の入口が見えた。
 誰もいない空き家が目に入る。
 立ち止まると、ヒサメさんも立ち止まった。
「行くのやめる?」
 ヒサメさんが私の顔をのぞき込む。
 家は、あと少しだ。
 私は首を横に振って歩き出す。

 怖い。
 行きたくない。

 足を進めると。
 一軒の家の前に辿り着いた。
 屋根は腐って崩れ落ちてしまっている。
「お父さん、お母さん」
 我が家だった。
 廃墟と化した我が家に向かって。
 父と母を呼ぶ。

 家の裏側は幸い、屋根が崩れていなかった。
 誰かがいる気配はない。
 頭でわかっているのに、何度も「お父さん、お母さん」と呼び続ける自分がいた。

 当時の光景が浮かんでは、
 何でこうなってしまったのだろうかと思うと。
 足の力が抜けて。
 しゃがみ込んだ。
 住み慣れた家を直視出来ない。
 魔法があるならば、戻してほしい。
 楽しかったあの頃に。
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