パラダイス、虹を見て。
 目尻が痛い。
 あんまり泣き続けると、イナズマさんに「うぜえ」とキレられそうなので。
 目を閉じて、一度深呼吸したけど。
 涙は止まらなかった。

 車は誰も通らない道を猛スピードで駆け巡り、
 いつしか森の中を通っている。
 舗装されていない道をガタガタいいながら車は通っていく。
 イナズマさんの運転は性格出ているなあ…と思う。

 車が停まった目の前には。
 宮殿の時と同じような、天にまで届くのではないかと思うくらい。
 先の見えない門があった。
 騎士団の2人が門の前に立っている。
「おい、通せ」
 窓を開けて、
 乱暴にイナズマさんが言うと。
 門が開いた。
(顔パスなのか…)
 イナズマさんが騎士団のポジションでいうと、下っ端ではないということだろう。
 車を走り抜けると。
 一軒の家の前に辿り着いた。
 赤いレンガで造られた家だ。
 屋敷というほどの大きさではない一軒家である。
「また特訓…?」
 うんざりした表情でサクラが言った。

 全員が車を降りて。
 イナズマさんに案内されて家の中に入る。
 玄関を通ってすぐに右側の部屋に通されると。
 男の人が立っている。
 背の高い女性のような綺麗な顔立ちをした男性だった。
 部屋に入った瞬間、サクラは「ぎゃー」と叫んで、その男性に抱き着いた。
「こんなことってあるの?」
 サクラが叫ぶ。
 サクラが皆を無視して、その男性と喋り続けるので。
 イナズマさんは怒るのではないかと顔色をうかがったけど。
 何故か、良いものを見たといわんばかりに。
 優しく微笑んでいた。
(どういうこと!?)

「明日の朝までは自由だからね」
 ヒサメさんが言った。
「但し、逃げられるとは思うなよ、サクラ」
 キツい口調でイナズマさんが言う。

 なんとなくだけど。
 この部屋にいた男性は、きっと。
 サクラの想い人なんだなってわかった。
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