パラダイス、虹を見て。
 嫌な思い出を全て消すことが出来たら、
 どんなにいいだろうか。

 秘密の館に戻るまで。
 車の中で思った。
 考えるのが苦手なくせに。
 頭の中で次々と嫌な場面が浮かんでくる、
 苦しかったこと、哀しかったこと。
 楽しかった思い出はすべて薄れていく。

「貴女には新しい人生が与えられたわけです」
 弁護士のピエールさんの言葉が脳裏に走った。

 全然、新しくない。
 どこで生きても。
 悲しみと罪悪感が付いてくる。

 イナズマさんがスピードを出したせいなのか。
 帰りはあっというまに秘密の館に辿り着いた。
 なんか、行きを遠回りしてたんじゃないのかな? と錯覚する距離だった。

「ただいまー」
 屋敷に入ると、「おかえりー」と言ってユキさんが出迎えてくれる。

「ご苦労さん」
 ユキさんの言葉に戻ってきたんだという安心感が出来る。
「カスミさん、ヒョウが大事な話あるって言ってた」
「…そうですか」
 安心感は撤回。
 大事な話・・・にずしんと心が沈む。
「ヒョウさん、部屋にいますかね?」
「いや、多分。庭でアラレといちゃついてんじゃない?」
 ユキさんが言うと。
 そのタイミングで話しかけたくないな…と思った。
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