パラダイス、虹を見て。
 処刑された。

 言葉の意味がわからなかった。
「じきにカスミの結婚相手だった侯爵二名も捕まる」
「…何言ってるんですか?」
 冗談としか思えない。
 何を淡々と語っているのだろう。

「これで、やっと(カタキ)は取れたな」
 言っていることは本当に残酷極まりないというのに。
 ヒョウさんは心から幸せそうに微笑んだ。
「イカれてます」
 立ち上がる。
「あなたは、イカれてます!」

 全速力で走り抜ける。
 どこでもいい。
 とにかく走ってどこかへ行かなきゃと思った。

 走れ。
 走れ。
 走れ。

 本気で、ヒョウさんは狂ってるんじゃないかって思った。
 処刑されたって。
 本当に何を言っているんだろう。

 めいいっぱい走り抜けると。
 見たことのない場所に迷い込んでしまっていた。
 一体、ここはどこなのか。
 薔薇の匂いがする。
「おい、何をしている」
 薔薇園らしきものが見えたときには。
 背後から誰かに話しかけられる。
 見ると、騎士団の人間だ。

 さーと血の気がひいていく。
 がむしゃらに走り抜けたところは。
 宮殿の近く。
「侵入者か? どこから入った」
 さほど年の変わらない騎士団の一人に言われ。
 もう一人の騎士団が剣を突きつける。
「来い、侵入するとはいい度胸だ」
「違うんです。侵入じゃないんです」
「うるさいっ」
 腕をつかまれると。
 ああ、終わった。
 もう人生すべて終わったと諦める。

「俺の連れなんだけど、見逃してくれないかな?」
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