パラダイス、虹を見て。
 全身黒を纏って外に出ると。
 ヒョウさんも同じく全身黒い服装で立っていた。

「行こうか」
 周りをうかがってみたけど。
 行くのは、私とヒョウさんだけのようだ。

 イナズマさんが運転席に座って。
 車は動き出した。

 後部席に私とヒョウさんは座る。
 車内はずっと静かだった。
 誰も一言も喋らずに、車は走り続けた。

 車が停まったのは、やはり墓地の前だった。
「兄貴、コレを」
 イナズマさんは花束をヒョウさんに渡した。
「ありがとう」
 花束は2つあった。

 ゆっくりと丘を歩いていくと。
 沢山の墓石が見えた。
 サラサラと風が流れるように草を揺らす。
 ヒョウさんは沢山ある墓石の中から、迷わずに歩いて行って。
 立ち止まった。
 花束を、ある墓石に置き。
 また、もう一つの花束を隣にある墓石に置いた。
 墓石に彫られた文字の一つには、Stuart, Howardと名前が彫られてある。
 没年は今から、じゅう…さんねん前。
 もう一つの墓石には、Paloma, Green, Howardという名前が彫られてある。
 没年は今から、にじゅう…いちねん前。

 ヒョウさんが祈り始めたので。
 自分も目を閉じて合掌する。
「俺の父親」
 目を開けると、ヒョウさんが帽子を手でおさえながら言った。
 風が強いので、
 聴き間違えかと思った。
「父親の隣で眠っているのは、俺達の母親」
 最初、言葉の意味がわからなかったので。
 ヒョウさんを凝視する。
 ここは、やたらと風が強くて。
 驚いた拍子に身体がよろける。
「私と、ヒョウさんは兄妹じゃないってことですか?」
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