拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
直後、例えるなら、鳩が豆鉄砲を食らったときのような表情を浮かべて固まってしまった桜小路さん。
その様は、なんとも間抜けで、折角のイケメンフェイスが台無しだ。
ーー何? どういうこと? 私、何か変なこと言っちゃった?
ついさっき放った自分の発言を思い返してみて初めて、自分の自意識過剰発言に気がついた。
その間抜けさは、桜小路さんの表情の比ではない。大間抜けにもほどがある。
ーーあー、今すぐ消えてしまいたい。
なんて思ったところで、そんなことできるはずもない。
うっかり者の私が二度にわたる自分の失言に後悔の念を抱いてる間に、我を取り戻したらしい桜小路さんからの、これ以上にないってくらい小バカにした半笑いの声が私のことを追い込んでくる。
「……もしかして、俺がお前のことを好きだとでも言いたいのか? フンッ、馬鹿馬鹿しい。寝言は寝てからにしろ」
最後には、いつもの如く鼻で笑って、吐き捨てられてしまう始末。
ーーそんな言い草あんまりだ!
元はといえば、恭平兄ちゃんのことで嫉妬してるような言い方をしたのは桜小路さんの方なんだから。
……もしかして、『俺のことを好きにさせてやる』とか偉そうなこと言ってたのに、私のことを好きになったなんて言えないから、誤魔化してたりして。
ーーもう、桜小路さんってば、素直じゃないんだからぁ。
自分からは恥ずかしさもプライドもあってハッキリ言えないのなら、ここは私から言ってあげた方がいいのかも。
もしかしたら、自分の気持ちに気づいていないってこともあるかもしれないし。
桜小路さんの言葉に怒ってたはずが考えはもう違う方向に突き進んでいて、自分の自意識過剰発言なんてスッカリ棚に上げていた。
「もう、ヤダなぁ。今更隠さなくってもいいんですよ? さっき、『菜々子があの男のことを好きなのかと思ったら、無性に腹が立って、つい』って言ってたじゃありませんか? それって、恭平兄ちゃんに嫉妬したってことですよね? つまり、私に好意があるってことじゃないですかぁ」
もう完全に思考はお花畑全開になってしまっている私は、桜小路さんの小バカ発言なんてそっちのけで、桜小路さんの言動について勝手な解釈を本人にぶつけてしまっていて。
言いながらなんだか気恥ずかしくなってきて、最後には、
「もう、ヤダ〜。こんなこと言わせないでくださいよ~」
なんて言いつつ、相変わらずソファで桜小路さんに組み敷かれたままの体勢で、両手で顔を覆い隠して再び身悶え始めたのだった。
そうしたら桜小路さんによって呆気なく両手を顔から引き剥がされてしまい。
「キャー、もう、何するんですか? 恥ずかしいじゃないですか〜」
真っ赤になりつつも抗議したのだけれど。
「フンッ、知ったことか。それよりさっきのことだ。確かに、『無性に腹が立って』とは言ったが……。それは、あれだ。自分の使用人が俺以外の命令に従うのが、腹立たしいっていうのと同じ感覚であって、別にお前に限ったことじゃない。勘違いするな」
全てが私の勘違いだということを説明されて、私はこれ以上にない羞恥に身悶えさせられる羽目になった。