拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
けれどそれなら、あんな紛らわしい言い方しなければよかったじゃないか!
馬鹿にされたままでは気が収まりそうもなかった私は、羞恥も忘れて反撃を試みた。
「だったら、あんな紛らわしい言い方しないでくださいッ! 色恋に不慣れなんですから、勘違いするのも当然ですッ!」
すると桜小路さんは、あっさりとのたまった。
「お前には俺のことを好きにさせると言っただろう? だから、俺がお前の従兄に嫉妬したと思わせて、お前の反応を確かめただけだ」
「そんなの酷いッ!」
「別に酷くないだろう? 恋愛には駆け引きも必要だ。これから一月の間、そういうことも含めて、たっぷりと教え込んでやる。お前は余計なことを考えず、俺のことを好きになることだけに集中していればいい」
桜小路さんのあんまりな物言いに悔しくて悔しくて。
「だから、あなたのことなんて好きにならないって言ってるじゃないですかッ!」
憎たらしいイケメンフェイスを睨み上げながら言い返してみるも。
「でも、俺にキスされるのは嫌じゃなかったんだろう? それに、俺が嫉妬したと思い込んで、まんざらでもなさそうだったじゃないか。少なからず、嫌悪感はないはずだ。お前こそ、俺のことを好きになり始めてるんじゃないのか?」
悔しいくらいに整った王子様然としたイケメンフェイスに、勝ち誇ったような笑顔を湛えて、図星をつきつつ、自意識過剰発言をお見舞いされてしまい。
余計悔しい思いをさせられることとなった。
ーーだからって、別に、桜小路さんのことを好きになりかけている訳じゃない。
恋愛ごとに不慣れでキスなんかしたことなかったから、そういうことに慣れていて、キスだって上手に違いない桜小路さんのキスに、ただただ酔いしれてしまってただけなのだ。
「あなたのことなんか好きになりかけてもないし、これからだって絶対に好きになりませんッ!」
後から後から悔しさがこみ上げてきて、とうとう爆発してしまっていたのだけれど。
組み敷いた私の鼻先すれすれの眼前まで迫ってきた桜小路さんに、首筋をツーッと指先でなぞりながら、
「そんなにムキになって否定しても、身体は嘘を付けないものだ。そのことも、これからたっぷりと教えてやる」
やけに色っぽい声音で宣言されてしまい。
触れられている首筋から、あたかも弱い電流でも流されているかのようにゾクゾクと身体が粟だっていく。
……と同時に、私の無防備な唇は、桜小路さんの柔らかな唇によって優しく啄まれてしまっていて。
ーー桜小路さんの言いなりになんてなるもんか!
そう思うのに、どういう訳か身体は制御不能で、桜小路さんのことを拒むことができない。
優しく啄むだけだったソフトなキスはやがて深いものになっていて、息をつくような余裕も思考も全てが奪い去られてしまっていた。