拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 そうして気づいた時には、いつものように桜小路さんの広い胸に抱き寄せられていたのだった。

 桜小路さんにお見舞いされたキスが、あんまり深くて濃厚なモノだったお陰で、まだぼんやりとしてて心ここにあらずで。

 あたかも身体は雲の上にでも浮かんでいるような、ふわふわとしていて、夢見心地だ。

 この前から一体どういうことだろう?

 桜小路さんにキスされるのが嫌などころか、もっともっとキスしてて欲しいって思ってしまう。

 それに、どうして桜小路さんの腕の中はこんなにも居心地がいいんだろう?

 どうしてこんなにも安心できるんだろう?

ーーずっとずっとこうしてて欲しいなぁ。

 なんて、どうしてそんなことを思ってしまってるんだろう?

 ぼんやりとした意識の中で、解けない謎が次々に浮かび上がってくる。

 そんな私のことを大事そうに抱き寄せてくれている桜小路さんは、私の頭を優しく何度も撫でてくれている。

 それがまた心地よすぎるものだから、一向に動けないで居る。

ーーさっき言われたように、桜小路さんのことを好きになりかけてるってこと? あーもー、よく分かんない!

 解けない謎に挑もうにも、今まで誰かを好きになったことさえ経験のない私には難解すぎて。

 呆気なく投げ出した私は、ブンブンと頭を揺すってしまうのだった。

 それをまたまた小バカにしたように、

「フンッ、どうした? 俺とのキスがあんまり心地よかったものだから、やめてほしくなかったのか?」

軽く笑った桜小路さんに図星をつけれて。

「////……ち、違いますッ!」

 あたかもリトマス紙のように顔を真っ赤に染めて、なんとも説得力に欠けることしか言えない私は、顔を隠すようにして桜小路さんの胸にピッタリと張り付くことしかできないのだった。

 そんな分かりやすすぎる私の反応に、桜小路さんは、

「フンッ、図星か。まぁ、仕方がないか。お前には、まだ俺のことを好きになりかけている自覚がないようだからなぁ」

やけに嬉しそうな声音で独り言ちるようにそう言ってきた後で、私のことを自分の胸から引き剥がすと。

 そうはさせまいとワイシャツを掴んで胸にしがみついている私の顔をグイと片手で上向かせてしまった桜小路さん。

 真っ赤になって縮こまろうと足掻く私の眼前にイケメンフェイスで尚も迫ってくるなり。

 何か嫌なことでも思い出しているのか、さっきのライオンを彷彿とさせる不機嫌極まりないという表情を忌々しげに歪めつつ、

「それはさておき、今後一切、俺の前で俺以外の男の名前を出すのは許さない。俺以外の男の名前を聞くのは不愉快極まりない。偽装だとは言え、お前は俺と結婚するんだ。結婚したら、キス以上のことは勿論、子供だって産んでもらわなきゃならないんだから、当然だ」

同様に怒気を孕んでいるような低い声音で耳を疑うようなことを言ってのけた。
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