拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
ーーあれから一ヶ月が経つんだぁ。早いなぁ。
なんて、感慨に耽っているような、そんな気分じゃなかった。
何故なら、桜小路家のご当主との顔合わせが明日だからだ。
その席には、ご当主の奥様である継母は勿論、つい一月前まで、その存在さえも知らなかった、顔も見たことのない父親も立ち会うのだという。
菱沼さんの話によれば、おそらく向こうは、私のことを調べ上げていて、何かしらの動きがあるかもしれないということだった。
明日には、この日のために、桜小路さんが私にと見立ててくれた、上品かつ女性らしい柔らかなフレアラインのアイボリーのワンピース(慣れない服)に身を包んで、初めてのご対面。
そう思うと、もう日付も変わろうとしているから、早く寝ないといけないのに、さっきから何度目を閉じてみても、一向に眠気が訪れてくれないのだった。
どこかのホテルのスイートルームかと思うくらい、だだっ広い寝室の、これまた広くて寝心地のいいキングサイズのベッドの上で。
気持ちよさげに眠っている桜小路さんと背中合わせの私は、どうしたものかと、只今絶賛、途方に暮れているところだ。
ーーこれはもう、徹夜だな。
どうしても眠れない時は、瞼を閉じてるだけでも頭と身体を休めることができるとか言ってたっけ。
寝るのを諦めた私が、どこかで耳にした不確かな情報を実行していた時のことだ。
朝にめっぽう弱くて、寝起きも頗る悪いが、寝付くのはほんの数秒という、(アニメのキャラ並みの特技を持つ)桜小路さん。
もうすっかり熟睡して夢の国の住人になっていると思っていた桜小路さんに、気づけば、あっと驚く間も与えられないうちに、後ろから抱き枕の如く抱きしめられてしまっていた。
驚きながらも、寝ぼけてるのかもしれない。そう思った私が、声をかけていいものか思案しているところに。
「……予想はしていたが、不安で眠れないようだな」
ちょうど項の辺りに顔を埋めてきた桜小路さんに、寝起きにしてはやけに優しい柔らかな声音で囁かれてしまい。
不安や緊張感で嫌な音を立てていた胸の鼓動が、今度は違った緊張感に見舞われて、たちまちドックンドックンと忙しなく騒ぎ始めてしまった。
今なら、口から心臓を飛び出させることもできるかもしれない。
なかなか寝付けずに居たせいか、可笑しなテンションの私がバカなことを考えている間に、何を思ったのか、桜小路さんは私の身体をヒョイと持ち上げいて。
着地させられたところが、目にもとまらぬ早業で仰向けになった桜小路さんの身体の上だったから驚きだ。