拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 どういう状況か詳しく説明すると、あたかもご主人様が自分の胸に飼い猫をのっけて、猫っかわいがりするときのような構図となってしまっている。

 突然の出来事に、驚くやら恥ずかしいやら、私はもうパニクってしまい。

 桜小路さんの上で手足をばたつかせて、まるで裏返ってしまった亀状態だ。

 それを桜小路さんは、他人事だと思って実に面白そうに。

「お前、カメ吉みたいだなぁ。いくら意識しすぎてるからって、そんなに暴れてると、興奮して余計寝られなくなるだろ」

 くっくと笑いながら、お決まりの自意識過剰発言を交えつつ、そう言ってくるなり、私の身体を僅かに持ち上げて、自分の右肩に私の顔を埋めるようにして、しっかりと抱き寄せ。

 のっけられた私の身体と桜小路さんの身体とが、さっきよりもピッタリと密着してしまったのだった。

 桜小路さんの身体と触れあっているところから、桜小路さんのあたたかなぬくもりと、トクントクンと心地よい心音とが身体に伝わってくる。

 あたかも身体の隅々にゆっくりと染み渡っていくように。

 恥ずかしくて堪らないはずなのに、どういうわけか、そんなことなどどうでもよくなってしまうくらいに、心地よくて、とっても安心できる。

 なんだか急に瞼が重くなってきて、とろんと微睡みかけているところに、桜小路さんの声が割り込んできて。

「どうした? 急に大人しくなって。抵抗しなくていいのか? あぁ、もしかして。こうやって俺に抱かれているのが心地よくて、眠くなってきたのか?」

ハッとなった私は、慌てて反論を試みた。

「……ちっ、がいますからッ! もう、からかってないで離してくださいッ!」
「別にからかってるわけじゃない。お前の被害妄想だ。いいから早く寝ろ」
「イヤイヤ、絶対からかってますって」
「からかってないから、早く寝ろ」
「……じゃあ、なんで笑うの我慢してるんですかッ!」
「気のせいだ。いいから早く寝ろ」

 それなのに、桜小路さんは可笑しそうにくっくと笑いつつ、私が何を言ってもただ受け流すだけで、ちっとも取り合ってはくれないのだった。

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