拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
そんな感じで、しばし不毛な攻防を繰り広げていたのだが……。
桜小路さんに、早く寝ろと何度言われても寝ようとしない私の頑なな態度に、とうとう焦れてしまったらしい、桜小路さんの毎朝恒例の不機嫌モードの低い声音が轟いた。
「いいから早く寝ろッ!」
一瞬、ビクッとしたものの、それよりも、ピッタリと密着しているお陰で、桜小路さんの身体のある部分の異変に気づいてしまったのだ。
それに気づいた途端、薄れていた羞恥が蘇ってきてしまい。
ピッキーンと身体を硬直させた私が、桜小路さんのある部分を避けるようにして腰を浮かせつつ、必死に抗議したのに……。
「こ、こんな状態で無理ですッ!」
「こんなのただの生理現象だろ? イチイチ気にするな。これくらいのことで恥ずかしがってたら、セックスなんてできないぞ」
「////……」
桜小路さんときたら、全く悪びれることなく、しれしれっと私の羞恥を煽るようなことを言って、尚もからかってくる。
恥ずかしいやら悔しいやら腹立たしいやら、ちょっとくらい文句を言ったところで収まりそうになかったけれど、今はそれどころじゃない。
それもそのはず、これまで恋愛ごとに疎かった私の関心事といえば、思春期の頃からスイーツに関することばかりだった。
男の人の、朝のそういう現象については、かろうじて聞きかじっていた程度で、それ以外はほとんど無知に等しいのだからしょうがない。
だからただ単純に、疑問に思ってしまったことを口にしただけだったのに……。
「ーーセッの話は今は置いておくとして。そんなことより、生理現象……って。朝だけじゃないんですか?」
「ーーはっ!? 朝だけ……って。お前、男がどういうときにこうなるかも知らないのか!?」
私の言葉にえらく驚いた様子の桜小路さんが一瞬フリーズして、けれどすぐに私の質問に質問で返してきて。
まるで、珍獣でも見るような目でマジマジと私の顔を凝視してくる。
「……な、なんですか? その、珍しい珍獣でも見つけたときのような反応は」
いたたまれない気持ちになってきて、堪らず言い返してはみたものの。
「……プッ。お前、珍獣って。ハハッ、ハハハハハッ」
心外なことに、私の言葉が壺にはまってしまったらしい桜小路さんは、もう堪らないって感じで、終いには豪快に笑い出してしまって、もう散々だ。