拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
いざ、出陣!?
豪快に笑い出してしまった桜小路さんの身体の上で、私はなんともいたたまれない気持ちで過ごしていた。
そんなに笑わなくったっていいじゃないか。どうせ笑うんなら、私のことお解放してからにして欲しい。
そうじゃないと、桜小路さんが笑うたびに、生理現象を起こしちゃってる部分がぶつかってくるから、余計にいたたまれない気持ちになってくる。
文句を言って解放してもらいたくても、桜小路さんの笑いは、まだ収まりそうにない。
ーーもう、ほんと、勘弁して欲しい。
とうとう我慢の限界を突破した私は、桜小路さんの口を両手で塞いでしまおうと、飛びかかった。
けれどすぐに私の動きを察知した桜小路さんは、私の身体を尚もギュッと強い力で抱き寄せると。
両足まで使って、ガバッと蟹挟みのような妙技まで繰り出してきた。
結果、さっきよりもピッタリと密着してしまっている。
当然、上半身だけではなく、あの部分も。
「ギャーーッ!?」
二十二年の生涯の中で、最大限に羞恥を煽られ、キャパオーバーとなってしまった私は真夜中だというのに、ド派手な叫び声をあげてしまっていた。
さすがの桜小路さんも、これにはかなり驚いてしまったようだ。
さっきまであんなに豪快に笑っていたのに、私の悲鳴と同時に、桜小路さんの動きと笑いがピタリとおさまった。
ーーそんなにすぐ止められるんなら、早く止めてくれれば良かったのに。
そう胸の内で悪態をついていると桜小路さんが動く気配がして。
私の様子を窺ってきた桜小路さんは、今度はやけに慌てた様子で、私のことを素早く解放してくれた。
元の場所に戻してもらった私が、やっと解放されたと、ホッと胸を撫で下ろしているところに桜小路さんのやけに申し訳なさげな声音が届いて。
「……菜々子、悪かった。少々はしゃぎすぎたようだ。もう笑ったりしない。だから機嫌を直してほしい」
いつしか無意識に閉ざしてしまっていた瞼をそうっと上げてみると。
そこには、えらくシュンとした表情で私の様子を窺っている桜小路さんの姿があって。
たちまち私の胸は、キュンとときめいてしまうのだった。
ーー恐るべし、イケメンフェイス。
「……べ、別に、機嫌を損ねた訳じゃありませんから、謝らなくてもいいです。そ……それより、男の人が、どういうときに……そう……なっちゃうのか……教えて……くだ……さい」
桜小路さんに動揺を悟られたくなくて、なんとか空気を変えてしまおうと、考えなしに声を放ってしまった私は、本当にうっかり者だと自分でも思う。
勢いで放ってしまったものの、段々恥ずかしくなってきて、声は途切れ途切れだし、次第に尻すぼみになっていった。
その上、桜小路さんの視線からも逃れるようにして、桜小路さんのチェックのパジャマの第一ボタンに視線を固定してしまっている始末だ。
こっちから訊いておいてなんだけど、本当は、その答えを聞くのも、どうにも憚られる。
耳を覆ってしまいたい衝動に駆られるのをなんとか抑え込んでいると、不意に桜小路さんの胸にそうっと優しく抱き寄せられた。