拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
昨夜はなかなか寝付けなくて、貫徹だと覚悟していたはずが、朝の目覚めは頗る快調だった。
心なしか、いつもより頭もすっきりとしているような気がする。
チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえてきそうな五月の季節に相応しい、とっても爽やかな朝。
目を覚ましたばかりの私は、まだ夢の中の桜小路さんの腕から抜け出して、う~んなんて言いつつ、両腕を思いっきり広げていた。
その横で、寝起きの頗る悪い桜小路さんはモゾモゾと布団の中に潜り込んで、イモムシと化している。
今日の寝起きは、一段と悪そうだ。
いつもだったらさっさと寝ちゃってたはずなのに、昨夜は、ずっと寝ないで私のことを気にかけてくれていたせいだろう。
きっと、うっかり者の私が貫徹なんかして、ご当主との顔合わせの席で、何かをやらかすんじゃないかと気が気じゃなかったに違いない。
そういう裏があるからだっていうことは充分理解してはいるんだけど……。
どこかの国の王子様然とした桜小路さんに、あーやってよくからかわれたりもするけど、なんやかんや言いながらも、優しく気遣ってもらったら、やっぱり悪い気はしない。
だからって、桜小路さんにお礼なんか言った日には、『勘違いするな』って言われるのは目に見えてる。
だから面と向かっては言えないけど、胸の内でコッソリ感謝しつつ、依然イモムシ状態の桜小路さんの身体を布団ごとゆすって、起こしにかかった。
平日は特に何も言われてはいないからこんな風に起こすことはないが、休日は起こすようにと本人に命じられているからだ。
「桜小路さん。そろそろ起きないと、食後のコーヒーゆっくり飲めませんよ」
「……うっさい。もう起きてる。少し横になってるだけだッ!」
「じゃあ、先に行ってるんで起きてくださいね?」
「……あぁ」
休日の朝の恒例となってしまった寝起きの頗る悪い桜小路さんとのやりとりを経て、この日は始まった。