拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
「大丈夫だ。あー見えて、親父は結構な腹黒狸だから。向こうの思惑なんて、とっくに気づいてるはずだ。おそらく、菜々子との関係も知ってて、既に牽制もしてるはず。だから安心しろ」
おそらくこれも、私の緊張を解すためなのだろう。
その言葉に、さっき気づいてしまった自分の気持ちが、決して報われることはないんだって、念押しされた気がした。
お陰で、余計にシュンと気落ちしてしまった私の様子に、困惑顔の創さんから名前を呼ばれたけれど。
「菜々子?」
「……だ、大丈夫ですッ! ほら、行きますよ!」
「あっ、あぁ」
これ以上何かを言われたら泣いてしまいそうだった私は、創さんの腕を引っ張って、大広間へと足を踏み入れた。
するとそこは、どこかのホテルのラウンジの一角ですか? と、見紛うほどの広々とした空間が広がっていて。
天井から下がる豪華なシャンデリアがキラキラと煌めいている様がなんとも圧巻だ。
テレビでしか見たことのない、長くて高級そうな特大サイズのテーブル席に腰を落ち着けている、ご当主と同年代の紳士淑女と言う言葉がピッタリな男女の姿があった。
そうして私の姿を確認するや否や、スックと立ち上がった父親と思しき男性が洗練された動きで歩み寄ってきて、さっそく挨拶が始まり。
「はじめまして。創くんの伯父の桜小路道隆です。それから、伯母である妻の貴子です」
「どうも、はじめまして。貴子です」
「……は、はじめまして。……ふ、藤倉菜々子と申します。よろしくお願いいたします」
握手を求められるままにふたりと握手を交わして、なんとか挨拶を終えることもできたけれど、内心ではドキドキしっぱなしだった。