拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
すると、それも想定内だと言わんばかりに、ふむ、と頷くような素振りを見せた菱沼さんが、「ええ」と答えてから簡潔な説明がなされた。
「藤倉様は今月中に社員寮から退去頂く予定ですので、その方が何かと都合がよろしいかと。
それに、創様がスイーツに目がないことに加えて、藤倉様がたまたまパティシエールだったことから『専属パティシエール』としましたが。
さすがにそれのみとなりますと、報酬もそれなりにしか払えなくなってしまいますしねぇ」
「あぁ、なるほど。……でも、住み込みっていうのはちょっと」
家事については納得いったものの、住み込みっていうのがどうしても引っかかる。
「あー、気がつきませんで、失礼いたしました。勿論、女性である藤倉様のプライベートはちゃんと配慮しております。設備も最新のものですし、セキュリティーの方も万全ですので、どうぞご安心ください」
どうやら、男性である菱沼さんはついうっかりしていて、それについての詳細な説明を忘れていただけだったらしい。
「そうでしたか、安心しました」
「それでは、報酬の方に移らせていただいてもよろしいですか?」
「はい」
ネックになっていた住み込みの件もすぐに解決し。
菱沼さんの説明も一番気になる報酬へと移り変わっていったため、私の意識も完全にそちらへと移り変わっていき。
さすがは日本経済に多大なる影響を与える財閥系企業だけのことはあり、報酬の額も申し分なかったどころか、予想以上だった。
その上、自分で作らなければならないが、食事も住む所まで付いているという、恐縮してしまうほどの好条件だったのだ。