拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
王子様の気遣いには、もう、ウンザリ!
トイレから出たら、また戻らなきゃいけなんだなぁ……。
そう思うと、憂鬱でしょうがなかった。
だからといって、いつまでもこんなところで長居もできず、早々にお手洗いから出た私は創さんから唐突に、
「朝も早かったし、疲れた。少し休憩するぞ」
そう言い渡され、連れてこられたのは、二階にある創さんの部屋だった。
確か、創さんがこの家を出たのが高校を卒業した頃だと言っていたけど、もしかしたらその頃のままなのかもしれない。
ご当主は継母と再婚しているとはいっても、創さんだって自身の子供なのだから、気にかかるだろうし、可愛いいに違いない。
まだお会いして数時間ほどしか経っていないけれど、ご当主と創さんのやりとりを見ていると、そうであることは一目瞭然だった。
もしかしたら、ご当主は創さんがいつでも戻ってこられるように、部屋を敢えて、そのままの状態にしていたのかもしれない。
そのことを裏付けるように、今は使われていない、ホテルの客室かと思うほど広くて日当たりのいい部屋には、家具やベッドは勿論、寝具も綺麗に整えられていて、すぐにでも使用できる状態で保たれていた。
綺麗に掃除の行き届いた部屋の白い壁には、これまた綺麗な女性の肖像画が飾られていて。
その傍に置かれているサイドボードの上には、可愛らしい小さな男の子を中央に、微笑みあっている美男美女の若いご夫婦が仲睦まじく寄り添っている家族写真が飾られている。
その写真から、その肖像画が亡くなった愛梨さんであることが窺えたものだから。
その他にも、創さんがひとりで写っているものや、親族や友人たちと一緒に写っているものもあったけれど、三人が写っている家族写真に私の目は釘付けとなっていた。
ーー愛梨さん、メチャクチャ綺麗ー! 女優さんみたい。それに、ご当主。創さんにそっくり! うわぁ、創さん可愛すぎッ!? 天使ですかッ?!
すっかり興奮状態の私は、思わずその写真のはめ込まれたおしゃれなガラス製のフォトフレームを持ち上げて、食い入るように見つめてしまっていた。
そんな有様だった私は、後ろに創さんがいることもすっかり忘れていたのだ。
創さんが背後にぐっと距離を詰めてきていることに私が気づいた時には、お決まりのように耳元で息を吹きかけつつ、
「女って、そういう子供の頃の写真とか見るの好きだよなぁ」
そう囁いてきた創さんによって、既に、背後から包み込むようにして抱きしめられたあとだった。
驚いて、手にしていた写真を危うく取り落としそうになったけれど。
フォトフレームは創さんにすんでの所でキャッチされ、ホッとした私の眼前には、それを元の位置に戻す様子がスローモーションのように映し出されている。
その時、何故か数あるフォトフレームのうちの一つが、創さんの手により、不自然に伏せられたように見えてしまったけれど。
この時の私には、そのことを気にかけるような余裕なんてものはなかった。
何故なら、創さんから意外な言葉がかけられたからだ。