拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
王子様の暴走
創さんは、私の言動に酷く驚いているようだ。
けれどもそれも一瞬のことで、すぐに訊き返してきた。
「……それってつまり、お前は俺のことを好きだと自覚したってことだよな?」
その言葉で、ようやく自分の失言に気づいてしまったところで、もうなかったことになんてしてくれないだろう。
そうと分かっていたとしても、今更あとになんて引ける訳がない。
だからといって、うっかり者で間抜けな私に得策なんて思いつくはずもなく。
「違いますッ! あなたなんか大っ嫌いです! だからもう解放してッ! お願いッ!」
低身長の私のことを上から見据えてくる創さんに向けて、渾身の反撃を放つのが関の山だった。
もう勝負なんて目に見えていたのだ。
それでもどこまでも諦めの悪い私は、もう、これ以上好き勝手にされてなるもんかと、キッと強い視線で睨み返すのだった。
「悪いが、その願いは聞いてやれない」
そこへ、創さんから返ってきた言葉は、予想通りのものだったけれど、条件反射で思わず。
「……どうして……ですか?」
そうは放ってみたものの。
ーーきっとまた、脅迫じみたことで黙らされるのがオチだ。
そう、落胆してしまってた私は、すっかり項垂れてしまい、足元を見つめつつ、涙を必死に堪えていた。
もうどうせ、何を言っても無駄だ。
諦めるしか他に方法はないんだから、しょうがない。
完全に、諦めの境地に到達していたのだ。
そんな私の身体がグラリと傾いて、突然のことに驚いているような猶予も与えてもらえないまま、とさっと背中から着地した場所は、部屋の壁伝いに置かれていたふかふかのベッドの上だった。
急なことに着地と同時に反射的に閉ざした瞼を上げると、視界いっぱいには創さんのイケメンフェイスが映し出されて。
呆然としてしまって、創さんのことを見つめ返すことしかできないでいる私の涙まみれの頬を創さんは、指でそうっと優しく拭いつつ。
「『どうして』? そんなの当然だろ? 好きな女にやっと好きになってもらえたのに、その女をみすみす諦めるほど、俺はバカじゃない」
耳を疑うようなことを言ってのけた創さんの言葉に、私の全身の機能が不具合を起こすというアクシデントに見舞われることとなった。
けれども、創さんの言葉はまだ終わらない。
あたかも私のことを尚も驚かせて、完全に息の根でも止めてしまおうとでもするかのように……。
「菜々子がずっと俺のことだけを見てくれるのなら、どんなことがあっても、この俺が絶対に守ってやる。だからずっと俺の傍に居てほしい。そう思ってるくらい、俺は菜々子のことが好きだ」
これは幻か夢でも見ているのかと自分の目と耳を疑ってしまうくらいの、なんとも情熱的で衝撃的な言葉を創さんからお見舞いされてしまったのだった。
ーーこ、これは一体、何が起こっているんでしょうか? まったくもって理解が追いつきません。