拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
創さんの言動の全てがあまりに現実離れしていたものだから、頭が追いつかないのは勿論のこと。
創さんの表情が、これまで目にしてきたもののなかで、一番柔らかで優しいものだったから余計だ。
ーーやっぱりこれは、夢か幻に違いない。
おそらく、昨夜はなかなか寝付けなかったから、無意識に眠ってしまってて、寝起きで寝ぼけているからだろう。
ーーそうだ、絶対そうに違いない。
なんだぁ、そうだったのかぁ。びっくりしちゃったなぁ、もう。
なんて途端にホッとした私が創さんに同意を求めたところ。
「……あのう、私、寝ぼけちゃってるみたいですねぇ」
創さんの柔らかで優しかった表情が見る間に困惑したものへと変貌し。
「まさかとは思うが。俺が言ったことを全部夢にして、なかったことにでもしようとしてるのか?」
今度は怖いくらいに真剣な表情をして、ぐっと、鼻先すれすれまで迫ってきた創さんによって、凄まれてしまい。
一瞬はたじろいだものの……。
ーーどうせこれは夢なんだから、ここで負けてなるものか。
たちまち勇気百倍。アニメのヒーローの如く奮起した私は、反撃に出るのだった。
「……だっ、だってっ! 今まで、嫉妬みたいなことは言ってたけど。私のこと好きだなんて、一っ言も言ってなかったし。訊いても否定してたじゃないですかッ! そんなの信じられませんッ!」
けれども私の言葉を耳にした刹那、創さんの怖いくらいに真剣だったイケメンフェイスが、何故か徐々にほんのり紅く色づき始めて。
ついさっきまでの勢いまでが削がれていくように、いきなり私から退き、色づいてしまった顔を隠すように自身の大きな右の掌で覆い隠してしまった。
そうして尚も、私の視線からも逃れようとするかのように、プイッと明後日の方を向いてしまった創さんが、
「……そんなの当然だ。この俺が嫉妬して我を忘れるなんて。あんなこと、初めてだったんだからな。それなのに、従兄のことが好きだなんて言い出して、言えるわけないだろ」
実に忌々しげに、ボソボソと毒づくように呟きを落としたのだけれど。
その内容が、これまた意外すぎたものだったから、知らぬ間に、あんぐりと大口を開け放ってしまってた私は、それと同様の大きな吃驚眼で、創さんの横顔を凝視したまま言葉を失ってしまっている。