拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
これまで創さんとは幾度となくキスを交わしてきたけれど。
それらは全て、恋愛ごとに不慣れな私に免疫をつけることと、創さんのことを好きにさせて人質として利用するためでしかないんだって思ってた。
でも、さっきの創さんの口ぶりだと、それだけじゃなかったって、ことだよね。
どうしてかは分かんないけど、私のことを好きになった創さんが、自分のことを好きにさせたいって思ってくれてたってことだよね。
それに、あんな風に嫉妬したのも私が初めてだって言ってくれてたし。
ーー初めて好きになった人に好きになってもらえて、こうしてキスまで交わしてるなんて、なんだか夢のよう。
ついさっき両想いになったばかりの創さんと、これまでのキスとは比べものにならないくらい、甘くて優しいキスを交わしながらポーッと夢うつつだった。
そんな夢心地だった私の身体が不意に僅かに浮かび上がって、それが背中に回された創さんの手によるものなんだと分かった刹那。
身につけていたワンピースのファスナーが中程まで下ろされ、そのままブラのホックまでがプチンと器用に外されて。
そこで初めて、我に返った私の心臓が物凄いスピードで鼓動を打ち鳴らし始めた。
さっき創さんが、今すぐ俺のものにしてやるって言ってたけど、あれってつまり、創さんは私とーーセッピーピーをするってことなんだ。
ーーええッ!? 今すぐ、ここで!?
そんなの困っちゃうよ。心の準備だってできてないし、第一、今日はご当主にご挨拶に来ている訳だし。
何より、こんなところでこんなことやっちゃってていいの?
いくらどこかのホテル並に広い豪邸だからって、大広間には皆さんがいらっしゃる訳で。
今は少し休憩を兼ねて創さんの部屋に居るだけであって、また皆さんのところに戻らなきゃならないっていうのに……。
この短時間の間に、あれこれ勘案していた私の頭がそこまで行きついたところで。
そんなの、恥ずかしすぎて一体どんな顔して戻ったらいいか分かんないよー。
ーーダメ、ダメ、そんなの絶対ダメッ!
夢うつつから一転、現実に引き戻された私が大慌てで声を放つも。
「……あっ、あのっ! 早くっ」
さっきまでのキスで思いの外乱れてしまっていた呼吸と、慌てているのとで、一息に言い切ることができなかったばかりか。
それを聞いた途端に、一瞬だけピクッと反応を見せた創さんから、驚いたような声が返されて。
「……お前、処女のクセに大胆だな。俺が折角抑えてやってるのに、そんな風に煽られたら、もう優しくなんてしてやれないぞ? いいのか?」
しかもそれが何やら大きな勘違いをされてしまっているようで、こっちの方が吃驚だ。
なんとかして誤解を解こうと、声を出そうとするも。
「……えっ!? あのっ、違くてッ」
「嘘だ、安心しろ。菜々子が俺のことを好きになって良かったって、心から思えるように、精一杯優しく抱いてやる。だから怖がる必要はない。いいな?」
今まで見たこともないような優しい微笑みを湛えたイケメンフェイスでふっと優しく微笑みつつ優しい言葉まで返されてしまっては、もうそれ以上抵抗する気などどこかに消え失せ。
優しい微笑と言葉に魅入られたようにポーッとしたままコクンと頷くことしかできない私のことを創さんは満足そうに見やると、もう一度優しい口づけを降らせた。
そのなんとも優しい甘やかな口づけに私が夢うつつで酔いしれている間にも、創さんの柔らかな唇は首筋へと移っていて。
気づいたときには、創さんによってワンピースは大胆に肌けられており、露わになった肩口や胸元にまで口づけられていたのだった。