拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
その様子をふっと柔らかな笑みを零した創さんが満足気に見届けてから、再びキスが再開されて、このまま創さんのものにしてもらえるんだと思っていたのだけれど……。
まるでそうはさせるかというように、突如不躾に部屋の扉をノックする音が響き渡り、その数秒遅れで。
「創様。ご当主がお呼びでございます」
菱沼さんのよく通る低く落ち着きある声音が私たちを包み込んだ。その刹那。
イケメンフェイスを忌々しげに歪めてチッと舌打ちした創さんから声が降ってきて。
「……その気になってくれた菜々子には悪いが、お預けだ」
「……へ!?」
「そんな残念そうな顔しなくても、今夜は寝かせる気はないから安心しろ」
「////……えっ、あっ、別に残念だなんてことは」
「……へぇ、ずいぶん余裕だな。俺なんてこのままじゃ戻れないくらい元気になってるっていうのに」
「////……ッ!?」
「そんな反応されたら、ヤバいからやめろ……と言われても困るよなぁ。まっ、とにかく俺は色々あるから先に戻るが、菜々子は暫くして落ち着いたら菱沼と一緒に戻ってこい」
「……え? 私も一緒に戻ります」
「ダメだ。そんな真っ赤な顔してたら、何してたかバレバレだぞ? 嫌なら、後でこい。わかったな?」
「////……は、はい」
未だ組み敷かれているせいで、色々恥ずかしいのに、尚も羞恥を煽ってくる創さんに最後には、畳み掛けるように押し切られてしまい。
素直に返事を返した私の頭をぽんと撫でてから、ベッドから降りてしまった創さんは、アッシュグレーのスリーピーススーツとネクタイの乱れを手慣れた様子でささっと正すと。
「菱沼。悪いが、菜々子の体調が戻るまでそこで待ってやってくれ。俺は先に戻る」
「はい、かしこまりました」
「じゃあ、頼む」
部屋の外の菱沼さんに指示を出すとそのまま部屋から出て行ってしまったのだった。