拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
知らなくていいこと?
創さんが居なくなってしばらくして、あたかも夢でも醒めてしまったかのように、現実世界に引き戻されてしまった私は、今更ながらに恥ずかしくなってきて、ベッドの上で現在悶絶中である。
ーーキャー! どうしよう。
創さんと両想いになっちゃったよ。
それに、『今夜は寝かせる気はない』って言ってたけど……。
それってつまり、そーいうことなんだよね?
ーーキャー!! どうしよう。心臓がもたないよ。
でも、今までの何倍も何十倍も……ううん、何万倍も、これまでとは比べ物になんないくらい、キスも、触れ方も、メチャクチャ優かったし。
なにより、あんな優しい創さんの笑顔なんて初めて見た。
ーー本当の王子様みたいだったなぁ。
あんなに素敵な王子様みたいな創さんが、私のことを好きだなんて、まだ夢でも見ているようだ。
そういえば、この前読んだ少女コミックのヒロインが、学園の王子様みたいな男子に好きだって言われたとき、夢かどうか確かめるために頬を抓っていたっけ。
「いっひゃーッ!」
ベッドの上でゴロンゴロンしながら、ハタと思い立って試してみれば、やっぱり痛くて、ちょびっとだけ涙でにじんだ目尻を拭っているところへ。
「……おい。どうした? 大丈夫なのか?」
すっかり存在を忘れてしまってた菱沼さんの安定の低くて冷たい声が響き渡った。
そういえば、ドアの向こうで待っていてくれてたんだっけ。
「すっ、すみません。大丈夫です」
「ならいいが。薬でも用意しようと思うが、どんな感じだ?」
「////……や、ただの寝不足なんで大丈夫です。もう少しだけ待っててください」
「そうか。分かった」
菱沼さんはいつも鋭いから、全部お見通しなのかと思って、ヒヤヒヤさせられたけど、それはどうやら杞憂だったようだ。
ホッと安堵した私は、あんまり待たせてしまうのもよくないと思い、ベッドから降りると、姿見の前で乱れてしまっているワンピースを正していて、ふとあることに気がついた。