拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
それは肩口や胸元に無数につけられた紅い痣のようなものだ。
それが所謂キスマークというものだと思い至った瞬間。
カーッと瞬く間に全身が真っ赤かに色づいてしまった。
今にも頭から湯気でも上がっちゃうんじゃないかと思うくらい、熱くて熱くてたまらない。
なんとか熱を冷まそうと、両手でパタパタしたところで、簡単にはおさまりそうもない。
必死で何度もパタパタしていたお陰でようやくおさまりかけた時のこと。
視界の端っこにチラリと映り込んだ愛梨さんの肖像画に目がいき、あることを思い出してしまった。
あることとは、私がフォトフレームを落としそうになった時、何故か伏せられたフォトフレームのことだ。
ほんの好奇心だった。
部屋の主である創さんが不在のため、ほんのチョッピリ後ろめたさもあったけれど、好奇心には勝てなかったのだ。
サイドボードに向きあってお目当てのモノを見つけ。
ーーあっ、これこれ。
そうっと持ち上げてみると、驚くことに私とよく似た、小学生の高学年くらいだと思われる女の子と、低学年くらいの創さんらしき男の子の姿が映っていた。
そういえば。父親には咲姫さんという既婚の娘さんが居て、創さんとは姉弟のように育ったっていってたっけ。
だとしたら、その咲姫さんじゃなかろうか。
たちまち浮かれてた気持ちが急激に沈んでいく。
そうかこの人が私の異母姉妹なんだ。
父親が一緒だもんね。そりゃ、似てても可笑しくないよね。
そしてある考えが浮上してきた。
おそらく、この写真を見た私がまた辛くなると思って、敢えて伏せてくれたに違いない。
ーーきっとそうだ。
私が知らない方がいいって創さんがそう判断したんなら、きっとそうなんだろう。
だったら、私は見なかったことにしよう。
創さんの心遣いを無駄にはしたくない。
私は何もかも見なかったことにして、身なりを整えてから創さんの部屋をあとにした。