拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 伯母夫婦に歓迎されて、これまでのことをあれこれ聞かされては、感激と照れくささで顔を赤らめつつ、創さんの隣で私は雲の上にでも居るんじゃないかと思うほどにふわふわと浮かれて、またもや夢見心地になっている。

 そんな浮かれモードの私のテーブルを挟んだ正面の伯母と伯父の隣に位置するやや右側には、どういうわけか、私たちが到着してからずっと、いつになくムスッと不機嫌そうな表情をしている恭平兄ちゃんの姿があった。

 いつもは看板パティシエらしく、爽やかな好青年を絵に描いたような優しい笑顔がトレードマークのはずの恭平兄ちゃんらしからぬ姿は、まるで出逢ってすぐの頃の創さんのようだ。

 一体どうしちゃったんだろう? 虫の居所でも悪いのかなぁ。もしかして体調でも悪かったりして。

 藤倉家のリビングに伯母夫婦と創さんの和気藹々とした談笑が飛び交うさなか、心配になってきた私が恭平兄ちゃんに向けて口を開きかけた刹那。

 終始無言を貫いていた恭平兄ちゃんがいきなり立ち上がったかと思えば、もう我慢ならないというように、

「ちょっと待てよッ!! 雇った若いパティシエールに手を出した挙げ句に、一月や二月で結婚なんて、そんなのいくらなんでも早すぎだろッ! こんな結婚認められるかッ!! 俺は断固反対だからなッ!」

ガタンッと椅子が派手な音を立てて倒れるのにも構わず、すごい剣幕で放った凄まじい怒号が飛び出した。

 どうやら機嫌が悪かったのは、私と創さんとの結婚に反対していたからだったようだ。

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