拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
創さんに促されるままにお風呂を先に済ませて、一人キッチンにこもってからも、私のことをそうっと見守るようにして、ついさっきまでダイニングのソファでタブレット片手に寛いでいたのだけれど、今は入浴中だ。
だから余計に物寂しく感じてしまうのかもしれない。
両想いになった途端、創さんがこれまでとは比較にならないくらい優しい雰囲気を纏っているせいか、同じ空間に創さんが居るだけで、なんだか安心できるのだから本当に不思議だ。
恭平兄ちゃんのことは気になるけど、佐和子伯母さんに任せておけば大丈夫だよね。
いつまでもメソメソしてもいられないし、ずっと落ち込んでたりしたら、創さんにも心配かけちゃうし。
こんな風に落ち込んで溜息ばっかりついてたら、やっと手にすることができた幸せが逃げてっちゃうよね。こういう時こそ前を向かなきゃ。
ーーよしっ、頑張るぞッ!
創さんと両想いになれたことで、どうやら恋のパワーを授かった私は、勇気百倍、アニメのヒーローの如く大復活を遂げて。
ーーさてと、道具の手入れも終わったことだし、後は寝るだけ。
と、道具を片したところで、重要なことを思い出してしまった私の、足のつま先から頭のてっぺんまでが見る間に真っ赤かに染まるのだった。
ーーど、どうしよう。
心の中で頭を抱え込んでしまった私の脳裏には、創さんに言われた言葉が鮮明に蘇っていた。
『今夜は寝かせる気はないから安心しろ』
あの場面が、あたかも動画のように色鮮やかに再生されて途切れたところで。
リビングのドアがガチャリと音を立てるとほぼほぼ同時に、すっかりトレードマークとなったチェック柄のパジャマに身を包んだお風呂上がりで、お色気ムンムンの王子様もとい、創さんが現れて。
「……ん? どうした? 顔、真っ赤だぞ」
キョトンとしつつも、真っ赤になっていることを指摘されてしまった可哀想な私は、益々真っ赤になってしまうのだった。