拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
いつになく必死な王子様
恭平兄ちゃんに反対されてしまったことで、そんな大事なことをすっかり忘れてしまってた私は、心の準備なんて当然できてなどいない。
そこへきての創さんからの指摘に、益々赤くなってしまっている私の大パニックに陥ってしまっている頭の中には。
ーーど、どうしよう。
おさまりきらないくらいに増殖してしまった、その言葉だけで埋め尽くされてしまっている。
ちょうどキッチンとリビングダイニングとの狭間で立ち尽くして、あわあわしていることしかできないでいる私の眼前には、スラリと長い足を活かして、おおよそ一メートルほどの距離まで歩み寄ってきた創さんの姿があった。
あまりの羞恥に創さんから目を逸らしたくても、どういうわけか、それさえもできずにいる。
その間にも、私との距離をゆっくり焦らすようにして詰めてくる創さんの姿が視界に映し出されていて。
まるでスローモーションの映像でも見ているようだ。
あくまでも、心の準備も何も整っていない私にはそう見えていただけであって、実際にはそんなにゆっくりではなかったに違いない。
とにかく、そういう余裕のない状態だった私の胸の鼓動はピークに達していて、耳元まで響いてくる鼓動の音がやかましくて仕方ない。
そんな中、とうとう眼前まで迫ってきた創さんが私の視線まで長身を屈めて至近距離から見下ろしてくると。
「……もしかして、昼間俺が言ったことを思いだしてテンパってるのか?」
私の心の中を勝手に覗かないでくださいッ! と、思わず抗議してしまいそうになるくらい、的確に図星をついてきた。
なんとも呆気なく見抜かれてしまった可哀想な私は、吃驚するやら恥ずかしいやらで、もうこれ以上赤くなりようがないってほどに真っ赤かになって、口までパクパクさせてしまっている。
これじゃあまるで金魚だ。
いつもみたいに、面白おかしくからかわれてしまうに違いない。
余裕がないながらも頭の片隅でそんなことを勘案している私の身体が、不意に何かによって包み込まれていた。