拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
何か、なんてそんなの、ここには創さんと私しか居ないのだから、創さんに決まっている。
けれど、創さんがまさかそんな行動に出るとは思ってもみなかったから、私の頭の中には疑問だらけだった。
驚きすぎたお陰で、羞恥なんてどっかに吹き飛んでしまっている私の耳には、これまた予想外な創さんの言葉が飛び込んできて。
「……あれは、菜々子が俺を好きだと自覚してくれたことが嬉しくて、あんなことを言ってしまったが。あの時はまだ、菜々子が自分の本当の気持ちには気づいてなかったんだから、そんなこと気にしなくていい」
ーーん? それって、どういうこと?
「あっ、あのっ」
創さんの話がなにやら可笑しな方向にそれてしまっているようなので、口を挟もうとしたのだけれど……。
「菜々子の気持ちも分かるが、先ずは俺の話を聞いてほしい」
「……は、はぁ」
私の言葉に被せ気味に、そう言ってきた創さんによって制されてしまっては口を噤むしかなかった。
「元々、菜々子が従兄のことを好きなことは分かっていたんだ」
けれども、話はそれるどころか、創さんの中では、私が恭平兄ちゃんのことを好きなことになっていて。
「あのっ、創さん。恭平兄ちゃんの」
「いや、分かる。分かるがちょっとまってくれ」
やっぱり黙っていられなくなってきて口を挟んだ言葉も、またもややけに必死になって私の言葉に被せてくる創さんの言葉によって制されてしまい。
「菜々子の気持ちも分かるし、菜々子には悪いとは思うんだが、こんなことで諦めるつもりはない。菜々子には、予定通り俺と結婚してもらう。勿論、これまで以上に優しくして、もっともっと俺のことを好きになってもらうつもりだ」
「……!?」
どんどん飛躍してしまった創さんの言葉に驚きすぎて、もはや返す言葉も失ってしまった私に向けて。
「いいや、絶対に、この俺が従兄のことなんて忘れさせてやる。だからこれまで通り、俺の傍に居て欲しい。俺のことをもう一人にしないでくれ」
尚も創さんは必死な様子で少々強引な上から口調で宣言してきて。
終いには、創さんの勘違いに困惑しきりの私のことをぎゅうっと強い力で抱きしめつつ、あたかも小さな子供がだだをこねるような口ぶりで言い切ってしまったのだった。