拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 すると創さんが何故か私のことを自分の胸から引き剥がして、正面から真っ直ぐに見据えてきて。

 その怖いくらいに真剣な眼差しに捉えられてしまった私は、いつしか涙に濡れていた頬もそのままに創さんを見つめ返すことしかできない。

 そんな私に向けて創さんから、

「それって、予定通り俺と結婚して、これまで通り俺の傍に居てくれるって意味だよな?」

そう言って念押しされて。

ーーそれ以外に、どういう意味があるっていうんだろう?

 とは思いつつも、創さんに向けてコクンと頷いてみせると。

「……それって俺にど……否、菜々子がそう言ってくれるのならなんだっていい。分かった。責任とって、一生俺の傍に置いてやる。後になって、気が変わった……なんて言っても、撤回なんてしてやらないからな」

 一瞬、私の視線から不意に視線を逸らせて、何かを言いかけたようだったけれど、すぐにいつもの創さんらしい少々強引な上から口調で宣言されてしまった私は、すぐさま「はい」と即答していた。

 これでやっと誤解が解けたとホッとした心持ちで胸を撫で下ろそうとしていた私の身体がふわりと浮遊して、気づいたときには創さんによって、お姫様抱っこの体勢で見下ろされていて。

 再び脳裏での、あの、『今夜は寝かせる気はないから安心しろ』発言の再生により、私の全身が瞬く間に真っ赤に染め上がってゆく。

 たちまち私の鼓動までがドックンドックンと早鐘を打ち始めて、頭までクラクラとしてきて酔ってしまいそうだ。

 その間にも、創さんの長い足を活かした歩みはずんずん進んでいて、あっという間に見慣れた寝室のベッドの上へと横たえられて、顔の両側にそれぞれの手をついた創さんによって、逃がさないというように、しっかりと組み敷かれてしまっていたのだった。

ついさっきまであんなにシュンとしていたというのに、創さんはもうすっかりいつもの調子を取り戻しているようだ。

 どうやら、本当に寝かせる気などないらしい。

 この日は、少々予想外なことが立て続けに起こってしまったために、私はすっかり忘れてしまっていたのだ。

 お風呂に入った時、着ていたワンピースが洗濯機で洗えるかの確認をしていて、ついでにポケットの中を改めたら出てきた、携帯電話らしき数字が書かれたメモを見つけこと。

 そしておそらく創太さんの仕業に違いないと判断し、そのままゴミ箱に捨てたということを、念の為、創さんの耳に入れようとしていたということを、すっかり失念してしまっていたのだった。
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