拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
創さんが降らせてくれるなんとも優しくて甘いキスが、やがて唇からそれて色んな場所を辿り始めた。
最初は、流した涙の痕がまだ残っているだろう頬をそうっと優しく拭うように。
次は目尻から耳元にかけてゆっくりと肌の上を滑るようにして辿ってゆく。
あたかも私の肌の感触をじっくりと味わってでもいるかのように。
もしくは『触れたところは全部俺のモノだ』そう言い聞かされてでもいるかのように。
けれど触れ方がとっても優しいせいか、これから少々いかがわしい不埒なことをされようとしているのに、なにか神聖な儀式でもしているのかという錯覚でも起こしてしまいそうなほど、とても心地よくて、安心できる。
心地よすぎてポーッとしている間にも、創さんの唇に触れられたところからほんのりと熱を帯びてゆく。
帯びた熱が徐々に熱せられ、全身が熱く火照って、とろとろに蕩けてしまいそうだ。
そんな夢心地のなか、創さんの唇が、いつしか閉ざしていた瞼の上にそうっと優しく触れてきて。
「……菜々子」
少しだけ掠れたなんとも色っぽい声音で名前を呼ばれ、その声に操られるように瞼を押し上げた先には、なにやら苦しげな表情を湛えた創さんのイケメンフェイスが待っていた。
何故だろう。創さんの瞳がやけに悲しげに見えてしまい、胸がぎゅっと締め付けられる心地がする。
どうしてそんな風に感じてしまったのかもよく分からないまま、間を置かずに。
「今菜々子に触れてるのはこの俺だ。これから先も、ずっとずっと先の未来でも、菜々子に触れていいのはこの俺だけだ。いいな?」
ついっきまで悲しげに見えていた瞳を不安げにゆらゆらと揺らめかしながら、聞き慣れた高圧的な命令口調でそう言い渡されてしまい。
――そんなにも私のことを想ってくれてるんだ。
さっき感じてしまったそれら全部が、創さんの私を想う気持ちの表れなんだと思うと、たちまち胸はキュンとしてしまうのだった。
「はい」
相変わらず不安げに私の反応を窺っている創さんに向けて、即答した私は、その嬉しさを抑え切れずに、創さんの背中にギュッと抱きついてしまっていて。
「……本当にいいんだな?」
それなのに、創さんからは、今更としか思えないような言葉が返ってきてしまい。
――もしかして、私が処女だから案じてくれてるのかな?
あんまり考えたくはないけど、創さんはこれまできっと何人もの女性とこういうことをしてきているのだろうけれど。
もしかして、処女を相手にするのが初めてとか?
――だったら嬉しいな。
たとえ創さんにとっての初めての相手が私じゃなくても、処女である私とのことが創さんのナカに色濃く残ってくれるんじゃないかってーー淡い期待を抱いてしまう。
そう思うだけで、幸せな心持ちになれる。本当に恋って不思議だな。
胸がジーンとして気を抜いたら泣いてしまいそうだ。