拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
だからって、こんなところで泣いちゃったら、また創さんを不安にさせてしまう。
それにあんまり迷惑をかけてしまったら、せっかくこんなにも好きになってくれているのに、気持ちが醒めてしまうかもしれないし。
こんな王子様みたいな素敵な人がどこにでも居るような平々凡々を体現したような私のことを好きになってくれるなんて、こんな奇跡みたいなことはもう二度とないだろうから。
『菜々子は何もする必要なんてない。俺のことだけ感じてろ』
創さんに言われた通り、私は何もせずに創さんにすべてを委ねていればいい。
そうしなきゃ、とは思うのだけれど、これが本当に夢じゃないんだってことをしっかりと確かめておきたくもある。
――だってそうでもしないと、明日になったら全部夢だった、なんてオチが待っていそうなんだもん。
そんな想いに駆られた私が泣きそうになるのをぐっと堪えて、創さんの胸にしがみついたまま返事を返してから、おずおずと尋ね返してみれば。
「……はい。あの、その前に、確認なんですけど、これって夢じゃありませんよね?」
ついさっきまでの不安げだった表情と悲しげだった瞳はなんだったのかと思うくらいに、物凄く怖い、まるで般若のような形相に豹変して。
「はぁ!? 夢だとッ?! もしかして、夢だと思いたいってことか?」
怒気の孕んだドスの利いた低い声音で凄んできた創さんに、
「あのッ、べッ、別に、そういう意味じゃ」
たじろぎつつも反論を返した私の声は、次に創さんの放った、
「もういい、分かった。これが夢じゃないってことを、この俺が今からたっぷりとその身体に教え込んでやる。それと一緒に、この俺がどんなにお前のことを想っているかも、たっぷりと刻み込んでやる」
さっき同様のえらく上からな高圧的な低い声音によって、瞬時に掻き消されてしまうこととなった。
けれども創さんの言葉には、私への想いが込められていたものだから、怖いなんて感情は微塵も湧かず、代わりにあたたかなもので満たされてゆく。
もう胸が一杯ではち切れてしまいそうだ。
そこへ、再開された創さんの少し荒々しくも優しい甘やかなキスが首筋を伝い始め。
「……んっ、ふぅ」
同時に、自分の出したモノとは思えないほどの甘ったるい吐息が私の唇から零れ始める。
やがて創さんの柔らかな唇が、以前創さんからプレゼントしてもらっていたお揃いのチェックのパジャマのいつの間にやらはだけられている胸元にまで及んでいて、胸元の柔らかな肌を擽り始めていたのだった。