拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
王子様と至福のひととき
だだっ広い主寝室のこれまた大きなキングサイズのベッドで眠る私の瞼の裏が淡い光に照らされて、深い眠りに落ちていた意識が徐々に覚醒してゆく。
淡い光の正体は、大きな窓を覆い隠しているカーテンの僅かな隙間から射し込んでくる陽光。今日も五月の季節に相応しい晴天に恵まれていることを知らせてくれている。
朝から元気なお日様のお陰で、いつものようにアラームが起きる時刻を告げるよりも少しだけ早く目覚めてしまった私は、これまたいつものように「う~ん」と大きな伸びをしてからスマートフォンに手を伸ばした。
ところが、私がスマートフォンを手にする前に、背後からチビである私の身体が創さんにスッポリと包み込まれたせいで、爽やかな朝を迎えつつあった私の頭が瞬時に覚醒してしまい。
昨夜、初めて好きになった創さんの本物の婚約者になって、処女も捧げて、晴れて身も心も創さんのモノにしてもらった。
その、あれこれを鮮明に思い出してしまったために、私は面白いくらいに真っ赤になって狼狽えてしまっているところだ。
「////……ええっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいッ」
けれども、私のことをこんな目に遭わせている張本人である創さんは、毎朝の如く私のことを抱き枕のようにぎゅうと抱きしめながら……。
「菜々子」
昨夜のあれこれを彷彿とさせるようななんとも甘い声音で私の名前を一度だけ、愛おしげに呼んだきり、また夢の中へと誘われてしまったようだった。
ーーなんだ。寝ぼけてただけか。
昨夜、処女でなくなったばかりだし、別に期待していた訳じゃないけれど、ホッとしたようなちょっとだけ残念なような、いや、正直、物凄くガッカリしてしまっている。
はしたない心情を抱いてしまった自分に恥ずかしさを覚えつつ、胸はキュンと切ない音を奏でていて。
私の首筋に寝顔を埋めて気持ちよさげに穏やかな寝息を立てている創さんのイケメンフェイスにそうっと自分の顔を寄せてチュッと軽く口づけてしまっていた。
ーー夢じゃないんだ。これからは本物の婚約者として、大好きな創さんとずっとずっと一緒に居られるんだ。
そう思っただけで、胸の奥からあたたかなモノが満ちてきて、たちまち私の胸を熱くする。