拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
あぁ、そういえば……。そのせいで私が泣いちゃった時には。
『そ、そんなに泣くほど嫌だったのか? そりゃそうだよな? 処女なんだもんな。悪かった。もう乱暴なことはしないから泣き止んでくれないか? 頼む、菜々子。この通り許してほしい』
創さんてば勘違いして、謝ってくるなり、私をベッドに寝かせて布団まで被せて、添い寝すると、そのまま私を寝かせようともしてたんだっけ。
でも私が嫌じゃなかったことと中断されても困ると抗議すれば。
『……最後までって……あっ、あぁ、そうか。確かに、そんな状態で放置されたら辛いよなぁ』
すぐにどういう状態かも察してくれたし。
『俺だって他人のことはいえないしな』
創さんも中断なんてできない状態だというのも理解できたものの。
どうしてそうなるのかが噛み砕けなかったものだから、グイグイ創さんに迫ってしまったりもした。
『言っときますけど、はぐらかすのはなしですからッ』
『……わ、分かった。ちゃんと教えるからちょっと待ってくれ』
お陰で創さんから一勝を勝ち取ることもできた。その上。
『面と向かって言いにくいからこのままで聞いてろ』
なんて言ってきて、説明する間ずっと、恥ずかしいのか、私の顔を胸に抱き寄せて自分の顔を見られないようにしていたり。
『……女が身体を触れられると興奮して気持ちが昂ぶるのと同じで、男は女の身体を見たり、感じて喘ぐ姿や声に興奮して、もっとよくしてやりたいと思うし。自分だけのモノにしたいと欲情して元気になるものだ。だからこうなってるし、菜々子と一緒でもう中断なんてできない』
私の貧相な身体に興奮し欲情してくれたことが嬉しくて、創さんの顔を拝んでおこうと説明が終わらないうちから顔を上げ、創さんのイケメンフェイスを凝視してたら。
『分かったらもういいだろう? あんまりじろじろ見るな。男はデリケートなんだからな。そんなに興味津々に見られると萎える』
恥ずかしそうにしているメチャクチャレアな創さんの姿にお目にかかることもできた。
そんなこともあって、少々調子にのってしまい。
『なら、私が触れたら、もっともっと元気になってくれますか?』
処女らしからぬ暴走を繰り出してしまったけれど。
『処女のクセに調子に乗るな。さっき、何もせずに俺のことだけ感じてろって言っただろ? 処女なら処女らしく黙って俺に抱かれてろ』
私の暴走が功を奏したのか、いつもの調子を取り戻したと創さんによって、あっという間に組み敷かれ、俺様口調とは裏腹な優しい甘やかなキスの嵐のなか、天国にでも居るような幸せな心地で、無事に創さんのモノになることができた。
昨夜のあれこれを思い浮かべて、創さんにもらった様々な言葉を反芻しては、創さんのモノになれたこの幸せを噛みしめるという至福の一時を味わっている。
ーーあぁ、なんて贅沢な時間なんだろう。
まさか、こんな夢のような時間が訪れるなんて、あの事故に遭って、病院で目覚めた時には、夢にも思わなかったし。
人質にされてしまった時には、事故で死んじゃえばよかったとさえ思っていたのに。
ーーあの事故で死ななくて本当によかったぁ。
心底そう思いながら、大好きな創さんのぬくもりをすぐ傍で感じつつ、創さんの少し幼く見える寝顔と至福の一時を独り占めしていたのだった。