拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
予期せぬ証言

ーー今日は日曜で創さんもお休みだし、創さんと一日中一緒に居られるなぁ。

 創さんの腕の中、そんなことを思いつつ、なんとも幸せな至福な一時を過ごしていたけれど。

 邪魔でもするかのように、突如創さんのスマートフォンが着信音を響かせた。

 いつも頗る寝起きの悪いはずの創さんも、仕事のこととなると別らしく。

 私のことを腕に包み込んだままスマートフォンに手を伸ばし、画面に表示されてる『菱沼朔太郎』の文字を確認した瞬間、「チッ」と忌々しげに舌打ちはしたものの。

 仕事のことに頭を切り替えるようにするためか、私の身体からさっさと離れ、ベッドの縁に腰を据えてから、始めこそ寝起きの掠れた声だったけれど、すぐにいつもの調子で話し始めた。

「……いや、起きてたから問題ない。どうした? ……あぁ、分かった。いつも時間に頼む」

 これまでの私なら、別になんとも思わなかっただろう。

 でも創さんのことを好きだと自覚して、創さんのモノになった途端。

 さっきまで創さんのぬくもりに包まれていたそのぬくもりが離れてしまっただけだというのに。

 そんな些細なことで、言いようのない寂しさを感じてしまったり。

 仕事とプライベートをきっちりと区別しているのをチラリと垣間見ただけだというのに。

ーー素敵だなぁ。格好いいなぁ。

 なんて思いつつ、通話中の創さんの姿にポーッと見惚れてしまっていた。

 電話の後に、ポーッとしているところを創さんにふいに抱きしめられてしまっていて。

「菜々子、身体のほう大丈夫か?」
「////……あっ、はい」
「そうか、良かった。悪いがこれから出勤になった」
「////……あっ、じゃあすぐに朝食の準備しーーッ!?」
「適当に済ませるから必要ない。もう少しだけこのままで居させてくれないか? 本当は菜々子と離れたくないが、そうもいかないし。少しだけでいいから頼む」
「////……はい」

 創さんも同じことを想ってくれてたことも分かり、またまた私の胸はキュンキュンときめいてしまっていた。

 そんな浮かれモードの私は、昨夜のあれこれが、身体の至る所に生々しい痕跡や余韻と名残とが色濃く残っているため、創さんのことを意識しすぎてしまっていたせいで、言いたいことの三分の一も口には出せずじまいだったけれど。

 まるでそれを補うように、創さんはいつにも増して優しくて、心なしか口数も多かったように思う。

< 150 / 218 >

この作品をシェア

pagetop