拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 そんなちょっとしたことが嬉しくて仕方ないんだから、恋のパワーは凄まじい。

 恋の威力に感心させられ、嬉しさと気恥ずかしさを感じつつも、幸せな心地で、いつものように仕事に出かけていく創さんと菱沼さんのことを見送ったのだった。

 そうして午前一〇時を少し回った現在。

 私は、大好きな創さんのために、旬のイチゴをふんだんに使ったタルトを作るべく、準備に勤しんでいる真っ最中。

 タルトの材料や道具諸々を作業台スペースに並べて、それらと睨めっこしながら、頭の中で出来上がりのイメージをシュミレーションしていた時のこと。

 広いキッチンのいつもの定位置であるサイドテーブルから。

【菜々子ちゃんったらぁ。そんなに張り切っちゃって、何かいいことでもあったのかしらぁ】

 亀だから表情からは感情なんて読み取れないけれど、絶対にニヤニヤしているだろうことがすぐに分かってしまうくらい、愛梨さんのやけにニヤついた口調が茶々を入れてきた。

「////……べっ、別にッ。創さんとは、何でもありませんからッ! 何にもッ!」

 愛梨さんの言葉に過剰に反応を示してしまった私は、

【今朝なんて、創のこと意識しすぎてなんだか変だったし、今の様子からして、うまくいったようねぇ。むふふっ】

何かを察した風な愛梨さんの言葉に、

「////……ッ!?」

ーードッキーーンッ!?

とさせられ、分かりやすいくらいに真っ赤になって絶句してしまうという大失態を犯してしまい。

【キャー、菜々子ちゃんってば、キャワイイ~ッ! この分だと孫にすぐ会えちゃいそうねぇ。ふふふっ】

 ご当主と同じ返しをお見舞いされてしまった私は益々真っ赤になってしまっていた。

 そこに、嬉しそうな笑みを零してはしゃいでいた愛梨さんから、

【あっ、いっけない。忘れてたわぁ。そういえば昨日、創太くんから何か渡されなかった?】

思いもしなかった言葉が飛び出してくるのだった。
< 151 / 218 >

この作品をシェア

pagetop