拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
愛梨さんの口からまさかそんなモノが出てくるとは思ってもみなかったから、一瞬呆然としてしまったけれど。
まだ昨日のことだし、記憶も鮮明に残っていた私は、そんなことありっこないと思いつつも……。
カメ吉に転生した愛梨さんという、摩訶不思議な現象のこともあるので、全くあり得ないこととも思いきれない。
だからといって、信じ切ることもできない。
「ーーえっ?」
驚きの声を放ってから、一拍ほどの間をおいて、半信半疑で問い返したところ。
「どうしてそんなこと知ってるんですか?」
【だって、この目で見てたんだもの】
愛梨さんは相変わらず見た目は亀なので、感情なんて読み取れないが、物言いが自信たっぷりなせいか、えらく得意げだ。
とても嘘をついているようには見えない。
ーーどういうことだろう? まさか、透視でもしたとか?
……いやいや、さすがにそれはないでしょ。
でも、そうでもしないと、見ようがなかったと思うんだけど。
「……えっ、でも、創太さんに会ったとき、って言うか、愛梨さんは、ずうっと応接室に居ましたよねぇ?」
あれこれ勘案しながら、難しい表情で腕組みを決め込んで、愛梨さんに尋問する私は、まるで名探偵気取りだ。
そんな名探偵気取りの私に、やっぱりどこか得意げに返してくれた愛梨さんからの答えは実に単純なモノだった。
【そうよ。だって、転た寝してたらいきなり道隆さんが入ってきて、その後すぐに創太くんが現れたんですもの】
透視でもなんでもなく、応接室での二人のやりとりを目撃していたらしい。
愛梨さんの説明によると……。
創太さんのことを呼び出したらしい道隆さんが、私に自分の連絡先を記したメモを渡してほしいといって、創太さんにあのメモを託していたらしいのだ。
そのことを聞かされた私は、すぐにパウダールームのゴミ箱からあのメモを探しだしキッチンへと戻ってきた。
それからは、さっきまでは創さんと苺のタルトのことしか頭になかった私の頭には、昨日対面したばかりの父親のことで埋め尽くされてしまい。
作業の邪魔だからと隅に追いやっていた椅子を引き寄せ腰掛けた私は、作業スペースにだらりと突っ伏したままだ。
そうして時折、十一桁の携帯番号を眺めては、大きな大きな溜息を垂れ流してしまっていた。
ーー私と会っても、顔色一つ変えなかったクセに。
私のことなんて、どうでもよかったんじゃないの? 私なんて、邪魔な存在でしかないんじゃないの? なのに、今更なんの用があるって言うんだろう?
そうは思うのに……。
もしかしたら私のことを気にかけてくれてるのかな? 何か事情があって、会えなかっただけで、本当は会いたいって思ってくれてたのかな?
なんて、期待めいたモノがヒョッコリと顔を出す。
けれども、父親のことを何も知らないため、こうして浮上しかけた気持ちを、またネガティブな思考が邪魔をして、また沈んで、その堂々巡り。