拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
そうして見る間に、炎を燻らせてのド派手なフランベを決めると、最後には糸飴を降らせて、できあがったスイーツの容器を受け取った男児は得意満面で舌鼓を打ち始めて、ようやく一件落着。
責任者の男にペコペコ頭を下げて片付けの終わった菜々子が男児の傍により、さっきはけたときに用意してたのだろう、カラフルなマカロンをプレゼントしていたようだ。
距離が離れていたのもあり、詳細まで窺うことはできなかったが、パティシエールの仕事を本当に楽しそうに熟す姿は、生き生きとしていたし、誇らしげで、また微笑ましくもあった。
ーー本当にパティシエールという仕事が好きなんだなぁ。
そんなことを思いつつ、時間が来たため菱沼と仕事に戻ろうとちょうどワゴンを押していく菜々子の後をゆっくり歩いていると。
「おねーちゃん、待って」
さっきの男児が追いかけてきて、驚きながらも、「……あっ、はいッ」元気よく振り返って立ち止まった菜々子に。
「さっきはごめんなさい。これ、さっきのお礼」
なにやら恥ずかしそうにしつつも男児が差し出したモノは、何かのカードのようだった。
「わぁ、いいの? ありがとう」
「ぼく、大きくなったらおねーちゃんみたいになりたい。弟子にしてください」
「……ええ!? や、嬉しいけど、まだまだ弟子なんてとれるほどじゃないから、ごめんなさい」
「じゃあ、彼女になってください」
「////……ええッ!? あの、ありがとうございます。でも、それもちょっと、お気持ちだけ受け取っておきますね」
「やっぱり年が離れてるから?」
「////……いや、あの、そういうんじゃなくて、一人前じゃないのでそういうのはまだ。本当にごめんなさい」
「そっか、わかった。じゃあね、バイバ~イ!」
「////……バイバイ。はぁ、びっくりした」
五歳児相手に、どっちが子供だよ? と思わず突っ込みそうになるほどニコニコの笑顔を綻ばせたり、かと思えば、真っ赤になってオロオロしてみたり、いちいち真に受けて、真剣に答えていたりして。
でも五歳児だからって適当にあしらったりせずに、対等に向き合う姿に好感が持てたし、単純に凄いなと感心させられた。
あの時、諦めた男児の言葉に心底ホッとして、安堵した表情でいつまでも五歳児の背中を見守ってた菜々子の姿が今でもハッキリと脳裏に焼きついている。
きっと俺はあの時から、何に対しても真剣で一生懸命な菜々子に惹かれていたんだろうと思う。