拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
朝からはしゃぎ通しだった私は、案の定、帰りの車中で転た寝をしてしまうという大失態を犯してしまうのだった。
車が揺れる微かな振動がゆりかごのように心地よくて、程よい疲労感との相乗効果で、いつしか寝入ってしまってたらしい。
「……ん? ああーッ!? 私ってば、いつの間に!」
不意に目を覚ました私が慌てて起き上がろうとするも、転た寝していた場所がなんと創さんの膝の上だったために、それは叶わなかった。
「疲れただろうからこのままじっとしてろ。マンションに着いたら俺が運んでやるから。な?」
「////……ッ!?」
否、正確には、飛び起きようと思えばいくらでもできたのだけれど、寝起きで食らってしまった、創さんの蕩けるような笑顔の威力が凄まじすぎて、できなかったのだ。
あたかも石にでもされてしまったかのように、カッチーンと硬直してしまっている私のことを膝枕してくれている創さんは、相変わらず蕩けるような笑顔を綻ばせつつ、私の額やら頭を優しく撫でてくれている。
胸はドキドキするし、頭もクラクラとしてきて、どうにかなってしまいそうだ。
けれどそれは、創さんの極上の笑顔と膝枕の効果だけが原因ではなかった。
どういうことかというと……。
水族館をあとにしてから、ウインドーショッピングしたりしているうちにすっかり日も暮れていて、小洒落たイタリアンのレストランで夕食も済ませているので、あとはもう帰るだけ。
創さんとの記念すべき初デートだし、きっと今夜はーー。
そこまで思い至った私の脳裏には、創さんと想いが通じあったあの夜のあれこれが映像となって鮮明に浮かんでいたのだった。
あの日は土曜日で今日が火曜日だから、まだほんの三日ほどしか経っていないため、それはもうハッキリくっきりと。
因みに、あの日以来、そういうことはしていない。
だから、そろそろそういうことがまたあるんじゃないだろうか。
そんな緊張感に見舞われている間に、車はいつの間にやらマンションの駐車場へと到着してしまっていて。
「明日もいつもの時間に頼む」
「はい。畏まりました。それでは失礼いたします」
「あぁ、世話になった。気をつけてな」
極度の緊張感に見舞われてもはや微動だにできずに居る私のことをひょいっと難なくお姫様抱っこしている創さんは、鮫島さんと言葉を交わすと、スタスタと歩き出してしまうのだった。
ーーいよいよなんだ。
そう思いつつ創さんの腕の中で身構えていたのだけれど。
「どうした? やけに静かだな? もしかして、このあとのことを案じてるのか?」
「////……ッ!?」
それをあっさり見破られてしまい、真っ赤になって狼狽えることしかできないで居る私に向けて。
「ハハッ。菜々子は分かりやすいな。顔に全部書いてあるぞ?」
創さんが追い打ちをかけてきた。