拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
今日は、最終日だということで、どこにも出かけずに一日中創さんのことを独り占めしていた。
創さんは最終日だからこそ、どこかに出かけようと言ってくれたのだけれど、明日から仕事である創さんにこの数日間の疲れを癒やして欲しかったので、マンションでゆっくり過ごしたいとお願いしたからだ。
それから、貴重な休日を私のために費やしてくれた創さんに私なりにお返しをしたいという想いもあった。
スイーツに目のない創さんのために、とびきりのスイーツを作ってあげたいーー。
そんな想いから、ごくごく自然に出た言葉だった。
それがまさか……。
『創さん。休みの間、色んなところに連れてってくれたお礼に、スイーツを作ろうと思うんですが、何が食べたいですか?』
『別に俺は見返りが欲しかったわけじゃない。俺が菜々子と一緒にやりたいことをやったまでだ。だから菜々子が気にやむ必要はない』
『私も。私も一緒です。見返りとかそういうんじゃなくて、ただ創さんのために何か作りたいだけなんです。だから、作らせてください。お願いします』
『だったら、フォンダンショコラがいい。フォンダンショコラを菜々子と一緒に作りたい』
創さんから、私と一緒にフォンダンショコラを作りたいーーそんな言葉が飛び出してきて、創さんと一緒に作ることになるなんて、なんだか夢でも見ているような心地だった。
勝手知ったる広くて綺麗なキッチンで、いつものように黒いコックコートに身を包んだ私の隣に、腕まくりした白いシャツに細身のジーンズ姿で張り切っている創さんが居て。
その傍らには、カメ吉に転生した愛梨さんが居るという、なんとも夢のようなコラボレーションだ。
といっても、愛梨さんは亀なので静かに見守ってくれているだけなのだけれど。
そういえば、休日に入ってからというもの、カメ吉のお世話は創さんが菱沼さんにお願いしてくれていたので、愛梨さんと話す機会もなかったから、六日ぶりかもしれない。
そのせいか、いつもお喋りなはずの愛梨さんは、創さんが近くに長時間居るせいで、感激でもしているのか、私に気を遣ってくれているのか、はたまた転た寝でもしているのか、やけに静かだったように思う。
けれども、創さんと一緒にスイーツを作るという夢のようなミッションに心躍らせてた私には、愛梨さんの様子にまで気を配っているような暇などなかった。