拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
なんでもそつなく熟してしまいそうな創さんは、スイーツは好きでも作るのは初めてというのもあって、小麦粉をふるいにかけるのでさえいちいち大騒ぎで。
『おい、菜々子。言われたとおりふるいにかけたが、こんなに減っても大丈夫なものなのか?』
『ーーええッ!? ちょっ、ちょっと待ってくださいッ! そんなに高いところでふるっちゃったら、そりゃ粉が舞い上がって、減っちゃいますよッ!』
『……確かにそうだな』
『もー、顔にまで粉がいっぱい付いて真っ白けじゃないですかぁ』
『……返す言葉もない。悪かった』
『じゃあ、このクーベルチュールチョコレートを湯煎にかけてもらってもいいですか? こうやってヘラで混ぜてくれるだけでいいので』
『それなら簡単そうだな。よしっ、任せろ』
頭から顔からもう全身どころか、そこらじゅう粉まみれにして、シュンと申し訳なさそうに大きな身体を竦ませてしまったり。
そうかと思えば、新たなミッションを与えられて、ぱあっと花が咲いたみたいに、とっても嬉しそうに笑顔を綻ばせつつ、得意げに作業に没頭していたりと。
創さんの姿は、まるで小さな子供のようで、メチャクチャ可愛らしかったし、ちょっぴり危なっかしくもあって、私の目は色んな意味で釘付け状態だった。
こんな簡単なことなのに、どうしてそんなことになっちゃうの?
……と、つい呆れたような声を放ったりもしたし、創さんとのスイーツ作りは思いの外難航したけれど。
とっても楽しくて、広いキッチンには、終始大笑いしたり大騒ぎする私と創さんの賑やかな声が絶えず響き渡っていた。
そうして現在、夕飯を済ませ、ようやく片付けも終えて、たった今焼き上がったフォンダンショコラを前に、いつものように、ソファに腰を落ち着けている創さんの膝上にちょこんと座った私は創さんと対峙している。
ただいつもと違うのは、フォンダンショコラを盛り付けた食器に添えられているフォークが、盛り付ける際に創さんからもらった、上品で繊細な装飾を施された銀製のモノであるということだ。
なんでも、宮内庁御用達の銀食器メーカーの職人さんが一つ一つ手作りした特注品であるらしい。
それだけでも吃驚なのに、桐の箱に収められた、セットになっている銀製のカトラリーの一つ一つには、筆記体で、『Nanako』と私の名前が丁寧に刻印までなされていたものだから、私はスッカリ恐縮してしまっている。