拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
私だけの王子様

 私はたった今、耳にしたばかりの創さんの言葉を信じることができずに、吃驚眼をこれでもかというくらいに、ただただ大きく見開いて微動だにできずにいる。

 これ以上目を見開いたら、目玉が落っこちるんじゃないだろうか。

 頭のどこかで冷静な自分がそう案じるような声が聞こえた気もするけれど、そんなモノに構っているような余裕なんて微塵も持ち合わせちゃいない。

 そんな私の吃驚眼には、なにやらバツ悪げに私の視線からプイッと顔を背けて、恥ずかしいのか、顔どころか耳まで真っ赤にした創さんの姿が映し出されていて。

「……俺には偏見を持つなとか言ってたくせに。なんだ、その、珍獣か何かを見つけた時のような反応は? 俺はまだ三十路でもないし、魔法使いでも妖精でもないぞ。自分だってついこの前まで処女だったクセに」

 これ以上にないくらいに不貞腐れた声音でブツクサと悪態をつくようにそんなことを言ってくると、終いには。

「菜々子があんまり不安そうにするから正直に教えてやったのに、失礼にもほどがある」

 鼻息荒く捨て台詞を吐くようにして言い放つと同時、膝上の私のことをソファに下ろすやいなや完全に私に背中を向けて、あっち向いてほいを決め込んでしまっている。

 どうやら創さんは、以前、創さんの『まるで処女だな』発言に対して怒った私が放った、『二十歳過ぎて処女だとおかしいっていうそんな偏見、持たない方が良いですよッ!』のことを指摘しているようだ。

 一体、どういうことになっているのかというと……。

 この夢のような数日間を過ごしていた傍らで、私のなかで募りに募っていた不安を創さんに向けて、思い切って、

『あのう、やっぱり処女だった私では物足りなかったんですか? だから、そういう気にもなれないんですか? もしそうなら、どうしたら創さんのことを満足させられるか教えてください』

ぶつけてしまったことが元々の発端だった。

 私の言葉に一瞬絶句して固まってしまっていた創さんの様子に、いたたまれない気持ちになってしまった私が顔を俯けてしまったことで、いつもの如く創さんは勘違いして、私が泣くと思い込んでしまったらしい。
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