拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
創さんは慌てふためいたように、
『ちっ、違うッ! 待て、泣くなッ! そうじゃない。誤解だ。ただ菜々子のことを大事にしたかっただけであって、満足してないとかそんなんじゃない。
俺も初めてで加減がよく分からなくて、菜々子の身体に負担をかけたらと、躊躇していただけだから、安心しろ』
そう言ってきたことにより、こういう状況となってしまっているのだった。
ーーあー、もうダメだ。降参します。
ついさっきまでの不安が跡形もなく、綺麗さっぱり消え去って、代わりに創さんへの愛おしさが次から次へとドンドンどんどん溢れてきて。
もう胸どころか全身におさまりきらなくて溢れだしてしまっている。
それでもにわかに信じがたくもあった。
だって、創さんが、ついこの前まで実は童貞だったなんて、そんなこと、信じられないし。
創さんの初めての相手が、まさか私だったなんて、そんなこと、信じろっていう方が無理だと思う。
どうしても信じられなかったものだから。
「創さんは私と違って大人だし、素敵だから、吃驚しちゃって、すみませんでした。でも、あの、本当に、その、私が……初めて……だったんですか?」
創さんの背中に問いかけてみると、ピクリと僅かに反応を示した創さんがゆっくりと振り返ってきて。
「もう、いい。謝るな。こんなことで菜々子と過ごす貴重な時間を無駄にはしたくない。それに、元はといえば、見栄を張ってしまった俺のせいだ。
菜々子が信じられないなら、信じられるまで何度でもいってやる。正真正銘、俺の初めての相手は菜々子だ」
そう言ってくるなり、私のことを広くて逞しい胸板へと抱き寄せて、ぎゅうっと身体が軋むくらいの強い力で抱き込んできたかと思えば、創さんは続け様に尚も言い放った。
「でも見栄を張るより以前に、ただでさえ緊張していた菜々子のことを不安にさせたくなかったんだ。だから許して欲しい。悪かった」
その全ては、処女だった私のことを大事に想ってくれていたからこそだったのだという。
ーーこんなに幸せで良いのかあぁ。幸せすぎてなんだか怖いよ。
創さんと想いが通じ合ったあの夜から始まって、この一週間、本当に夢でも見ているような心地だ。
あんなに不安だったのが嘘のように、幸せな心地だった私は、これが夢じゃないんだと確かめたいーー。
その一心で、私は創さんの胸にしがみついたまま乞うような心持ちで声を放っていた。
「私も。私も、創さんのこと許しますから、その代わり、これが夢じゃないって証明してください」
ーー自分にとって創さんが特別な存在であるように、創さんにとっても、そうであって欲しい。
初めて好きになった創さんのことを独り占めしたいーー。
この時の私は、そんな想いに突き動かされていたのだった。