拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
そうして今、『パティスリー藤倉』の自宅の客間である和室にて、父親との対面を果たしているのだけれど。
どういう訳か、そこには桜小路家のご当主であり創さんの父親でもある、創一郎さんの姿があった。
それだけでも吃驚なのに、ずっと沈痛な面持ちで背筋を正していた創一郎さんは、全員が揃うと同時、私の眼前で土下座すると。
「今日は創の父として、愚息の非礼を詫びに参りました。創から聞きました。まさか、菜々子ちゃんのことを人質にしていたなんて。その上、身代わりにしようとしていたなんて、呆れ果てて返す言葉もございません。本当に申し訳ございませんでした」
謝罪の言葉を並べ立てた。
土下座なんてするものだから、一体何事だろうと慄いていたのだけれど、どうやら私のことを人質にした件で謝ってくれているらしい。
けれども、どうやらそれだけではないようで、『身代わり』なんて言葉がご当主の口から飛び出してきた。
確かに、人質にされてはいたけれど、『身代わり』にされた覚えは一切ない。
「あのう、『身代わり』ってどういうことですか?」
疑問を口にした私の言葉に応えてくれたのは、これまで静観を貫いていた父親の方だった。
「創くんは誤解していたようだが。実は、君は僕の娘ではないんだよ。君の父親は、十五年前に亡くなった僕の弟でね。そのせいか、僕の娘の子供の頃に君がよく似ているんだよ。けどまさか、本当に身代わりにしようとしていたなんてね」
父親だったと思っていた人が実は父親のお兄さんで、父親は既に亡くなっているのだという。
それから、人質だけでなく、道隆さんの娘である『咲姫』さんの身代わりにまでされていたなんて……。
ちょうどそこへ、桜小路家へ挨拶に行った折、創さんの部屋で目にした道隆さんの娘さんである咲姫さんだと思われる、私によく似た女の子の写真が脳裏に浮かび上がってくるのだった。
いっぺんに色んな情報が一気に流れ込んできて、ただでさえ収集がつかないのに、ショックを隠せないでいる私の頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。