拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
「あのっ、創さんは。創さんは、今どこに居るんですか?」
だから、長方形の座卓に両手をドンッとついて、ご当主に真正面から迫ったというのに。
「否、それが、創に口止めされていてね」
この期に及んで言い淀んでしまったご当主に向けて。
「この、分からず屋ッ! 私のことを人質にした創さんもどうかと思いますけど。元はといえば、創さんのことをずっと一人にしてしまってたご当主にも責任があるんじゃないですか?
もっと前からちゃんと色んなことを話し合っていれば、私の父親が道隆さんだって誤解することもなかっただろうし。創さんが自分を責めることもなかったんじゃないですか?
今だって、創さんのこと全部理解したつもりになって、意思を尊重してるつもりかもしれないですけど、子供が間違った答え出したら、それを正してあげるのが親なんじゃないですか? こんなの放任主義でも何でもありませんよッ! ただの育児放棄ですッ!
自分が悪者になりたくないからって、奧さんと創さん、どっちにも良い顔して、面倒ごとから目を背けて、ちゃんと向き合ってこなかった結果なんじゃないですか? 頭下げるだけなら、カメ吉だってできますよッ!
こういう時に一番に頼れるのが家族じゃないなんて、あんまりですッ! もういいですッ! 菱沼さんに聞きますからッ!」
以前菱沼さんから聞かされてからずっと引っかかっていたこともひっくるめて、ご当主に言いたいことを勢い任せにぶつけた私は、廊下で控えてくれているだろう菱沼さんの元へ脚を進めかけたところ。
私の背中にご当主から声が放たれて。
「実は前々から、ロスにMBAの資格を取りに行きたいと言ってたんだけどね、アレルギーのこともあるし、ずっと踏み切れないでいたんだけど。この機会に、向こうで一人で頑張ってみるからって。帰国したら家にちゃんと戻るから、それまで待っていて欲しいって。午前一一時四五分発の便に乗る予定だから、今ならまだなんとか間に合うと思う。菜々子ちゃん、創のことをよろしく頼みます」
私の必死な想いが通じたのか、最後には頭を下げて、私に創さんのことを託してくださった。