拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 道隆さんの話だと、ご当主も相当堪えているようで、これからはそんなことにならないよう、しっかりと改めると言ってくれているらしいので、ほっと一安心といったところだろうか。

 すべてが一件落着し、こうしてやっと、本当の父親のことも聞くことができたし。

 また、自分が両親から望まれて生まれてきたのだということも分かった。

 長年の募りに募っていたモノが靄と一緒にやっと晴れていくようなそんな心地がする。……と同時に。

 お父さんて、どんな人だったんだろう。一度でいいからちゃんと話してみたかったなぁ。

 まさか、十五年も前に亡くなっていたなんて思わなかったなぁ。もう逢いたくても逢えないんだーー。

 そうと思うと、なんとも言えない寂しさが込み上げてくる。

 通話中、急に黙り込んでしまった私の心情を察してか。

『僕と弟は一卵性の双子だったから、よく似ていてね、しょっちゅう間違われてたんだ。だからきっと、今も生きてたら僕みたいなイケオジだったと思うよ。

あぁ、でも、君のお母さんだけは一度も間違ったことなかったから、全然似てないって怒られちゃうかもしれないけどね。今度、写真送るから確かめてみるといい』

 おどけたような明るい声でそう言ってくれた道隆さんの優しい心遣いに触れて。

 父親に一度逢っているといっても、小さい頃だったし、相手は意識不明だったこともあり、記憶なんて残ってもいないけれど。

ーーきっと道隆さんのように優しい人だったんだろうなぁ。

 きっと今は天国でお母さんと仲良く一緒に居て、私のことを見守ってくれてるよね。

 もしかしたら、愛梨さんみたいに転生してどこかで見守ってくれていたりして。

ーーもしもそうなら、二人が出逢ってくれたこと、私のことをもうけてくれたことに、ありがとうって伝えたい。

 それができない代わりに、私が二人の分までめいっぱい幸せになって、天国に居るんだろう二人を安心させてあげなくちゃーー。

 だから今は泣いている場合じゃない。これからの未来に向かって前進あるのみだ。

 そう思うのに、逢いたくてももう二度と逢うことの叶わない両親のことを想うと、なんとも言えない寂しさと涙が込み上げてくるけれど。

 きっと両親は私がいつまでも泣いてる姿なんて見たくないはずだ。

 それに、めそめそ泣いてばかりいたら、両親が不幸だったみたいで、それも嫌だ。

 お互いのことを想いあうことのできる相手に巡り逢うことができたんだから、両親は幸せだったに違いない。

ーー私と創さんが巡り逢うことができたように……。

 気を抜けば泣き出してしまいそうなのをぐっと堪えて、それらを振り払うようにして精一杯の元気な声を放って通話を終えようとしたのに。

「はい、お願いしますッ! 今日は貴重な時間を割いてくださったうえに、色々と話してくださってありがとうございましたッ!」

『そんなに畏まらなくてもいいんじゃないかな? 僕は君にとって伯父さんなんだから。両親のことが聞きたくなったら、いつでもこの番号にかけておいで。遠慮なんか要らないからね。それじゃあ、創君によろしく。またね』

 切り際に、伯父である道隆さんから、思いの外優しい言葉をかけてもらったものだから、とうとう泣き出してしまった私は、微かに震える声で、「……はい」そう返すのがやっとだった。
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