拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
愛梨さんの起こした奇跡!?
今はもう逢うことは叶わないけれど、こうしたふとした瞬間に、道隆さんや、誰かの中で今も息づいている父や母の面影に触れることができるんだ。
こうして触れるたびに、今はほんの僅かしかない父の面影だって、これからどんどん増えていくのだろう。
ーーだっから寂しくなんかない。私の中でずっとずっと息づいていくんだもん。こんなに心強いことはない。
これからどんなことがあってもきっと大丈夫なはずだ。
場所が日本であろうと、ロサンゼルスであろうと、そんなの関係ない。
伯父、道隆さんの優しさに思わず泣いてしまったけれど、そのお陰で、大事なことに気づかせてもらった気がするから結果オーライ。
間接的にではあっても、両親の想いや優しさに触れることができて、勇気百倍。あとは創さんの元へ向かうだけ。
しっかりと前を見据えようと、涙に塗れてしまった目尻や頬をさっと拭って目を凝らした私の視界には、事故でもあったのか、青信号だというのに、渋滞の列をなした車の動きは完全に滞っている様子が映し出され。
「……どうやら、この先で大きな事故があったようですねぇ」
「まずいなぁ。ここから降りて、走るわけにもいかないしなぁ」
続いて、鮫島さんと菱沼さんの声が届いて意識を向けると、ナビを操作しながら渋い面持ちで見合わせている二人の姿が視界に映り込み、途端に緊迫した空気が車中に漂い始めた。
手にしたままだったスマートフォンで時間を確認すると、出発の時刻までもう三十分もない。
ーーど、どうしよう。このままだったら間に合わないよ!
さっきまでの涙なんてスッカリ消え失せ、頭の中では『どうしよう』という言葉だけが渦巻いていた。
そんな大ピンチのさなか、意外にも今はここに居ないはずの、愛梨さんの声が意識にスーッと入り込んでくるのだった。
【菜々子ちゃん、ありがとう。菜々子ちゃんのお陰で、長年のわだかまりもようやく解けそうよ。これで私も、やっと成仏できるわぁ】
今はカメ吉も居ないし、愛梨さんの声が聞こえてくること自体、吃驚なのに。
最後に愛梨さんから飛び出してきた、『成仏できるわぁ』の言葉に、最早私はパニック同然だ。
「ええッ!? ちょっ、それって、どっ、どど、どういうことですかッ!?」