拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
「どういうこともなにも、この先で大きな事故があって、この通り、大渋滞を起こして動けない状況だ。間に合わないかもしれないが、次の便で追いかければ大丈夫だから案じるな」
プチパニック状態の私の放った声に、愛梨さんの存在を知り得ない菱沼さんから、こういう時にも相変わらずの落ち着き払った声を返されてしまうのも当然だろう。
ーーあーもー、こんな時に面倒くさいな!
胸中で悪態をつきつつも、しょうがないので菱沼さんに適当な言葉を返しておくことにした。
「そんなの見れば分かりますからッ!」
「なんだと? お前が聞いたんじゃないかッ!」
「まぁまぁ、菱沼さん。菜々子様はまだ若いんだし、きっと坊ちゃんのことで頭がいっぱいなんですよ。だから、こっちが気を利かせてあげないと。ねぇ?」
「……フンッ、お菓子の差し入れの威力は絶大のようだな」
けれど、愛梨さんの言葉が気にかかってしょうがなかった私の言葉はあんまりなモノだったようで、菱沼さんの逆鱗に触れてしまったようだったけれど。
菱沼さんが放った言葉通り、時折鮫島さんに差し入れてたお菓子が役立ったのかは定かじゃないが、鮫島さんが心強い味方についてくれていることは確かなようだ。
鮫島さんのフォローにより、私は愛梨さんとのテレパシーでの会話に全神経を集中させた。
……といっても、私はただ愛梨さんからの言葉に頭の中で、答えるだけなので、特に何をするでもないのだけれど。兎にも角にも話に集中したのだ。
(あのう、愛梨さん、『成仏できる』って、どういことですか?)
【そのままの意味よ】
(いやだって、まだカメ吉としての天寿をまっとうできてないでしょう?)
【あぁ、あの話は全部嘘よ。この世の中に転生なんて。そんな小説みたいなことありっこないわよ。そうでも言わないと、幽霊だなんて言ったら、菜々子ちゃん怖がって私と話なんてしてくれなかったでしょう?】
(……ゆ、幽霊、だったんですか?)
【そうよ。カメ吉に取り憑いてたの。驚かせちゃってごめんなさいね】
(……あぁ、いえ)
愛梨さんの『幽霊だった』発言には驚いたけれど、確かに、『転生』よりかは説得力がある。
……いやいや、もうどっちでもいい気さえしてきた。
だってどっちにしろ、非現実的で、菱沼さんだけじゃなく、誰かに言ったところで信じてもらえっこないのだし。