拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
どこまでもつづく蒼い空を見上げて
ーー本当に、成仏しちゃったんだ。
同時に、愛梨さんが旅立ってしまったことを実感してしまい。涙が止めどなく溢れては零れ落ちていく。
【そんなに泣いちゃったら、創に逢ったとき誰だか分かんなくなっちゃうわよ? ふふふっ】
そんな私に向けてどこからともなく、愛梨さんの明るい声と笑い声が聞こえたような気がして。
ーーいけない、いけない。そうだった。これから創さんに逢うんだから、泣いてちゃダメだ。
私は今度こそ涙まみれの顔を拭って、しっかりと前だけを見据えた。
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やがて空港に到着し創さんの姿を追い求めて向かったファーストクラスのエントランスで、ラウンジへと歩みを進めている創さんらしき背中を見つけたその瞬間、私は一目散に駆け寄っていた。
「創さんッ!」
「ーーなっ、菜々子!? ど、どうして……ここに?」
背後から腰元に飛びついた私にビクッと大きな反応を見せてもなお、まだ半信半疑って様子で驚いた声を放ったまま創さんは放心状態だ。
そんな創さんのことがどうしようもなく愛おしいけれど、今はそんなことにときめいている場合じゃない。
ーーこんなことはもうご免だ。もう二度と、こんなことして欲しくない。今すぐ何もかもの誤解を解いて、安心させてあげたい。ずっとずっと傍に居て欲しい。一ミリだって離れたくない。
私の中で、色んな感情がひしめき合っていて、すぐにはまとまりそうにない。
だから、今一番、伝えたいことを声に乗せて紡ぎ出した。
そのつもりだったけれど、放ったモノは支離滅裂で、創さんに言いたいことの半分も伝わったか怪しいものだ。
「……小麦粉だってちゃんとふるえないクセに、一人でやってくなんて無謀にもほどがありますッ! それに、道隆さんは父親じゃなくて、伯父さんだって言うし。私が恭平兄ちゃんのことを好きだなんて、勘違いもいいとこですよッ!」
「ーーか、勘違い!? だったのか?」
「そうですよッ! 私がこんなに創さんのこと好きなのに。昨日だって、あんなにエッチなことばっかりしておいて、朝起きたらさよならなんて、酷すぎます。あんなのヤリ逃げじゃないですかッ!」
「ヤ、ヤリ逃げ!? そ、そんなつもりは」
「そんなんで次期当主なんかになれるんですか? そういうとこ、これから私がしっかりたたき直してあげますから。だから、一緒に連れてってください。もう二度と勝手なことしないでください。私、創さんのこと愛してるんですから。もう離れられなくなっちゃってるんですからぁ。バカバカバカァ」