拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
そんな有様なので、目の前に居る創さんに集中し切れていない私の様子が面白くなかったようで。
創さんは王子様然としたイケメンフェイスを訝しげに歪めさせてしまっている。
ーー怒らせちゃったんだ。どうしよう。
なんて思っている間にも、
「どうしたんだ? 飛行機に乗る前から様子も少し変だったし。もしかして、ここまで着いてきたことを後悔してるのか?」
そういって追及してきた創さんの顔がどんどん陰ってゆく。
ーー違う。
そういって誤解を解きたいのに。
それを阻むように、そこにまた創さんの声が放たれて。
「だったら、ハッキリ言ってほいい。もう、菜々子の嫌がるようなことはしたくない」
ハッキリ言って欲しいという言葉とは裏腹に、
『本当はそんなこと言って欲しくない。違ってて欲しい』
そう言われているような気がした。
ついさっきまで気にかかってしょうがなかった愛梨さんのことなどどこかに吹き飛び。
「どうしてそうやって悪い方にばかり考えちゃうんですか? そんな訳あるはずないじゃないですか。飛行機も初めてだったし、ましてや外国なんて初めてなんだからしょうがないじゃないですか。だからもう、そんなこと心配しないでください」
うっかり者の私らしく、ガバッと起き上がって創さんの言葉を打ち消してしまうのだった。
すると、すぐにホッとした表情の創さんがどうした訳か、急につらつらとしゃべり始めて。
「そうか、菜々子にとって、俺と体験した何もかもが初めてだったんだなぁ。なら、菜々子の初めては全部俺のものって訳だよな? それに、菜々子自身も俺だけのものになってくれたんだし。もう遠慮なんて要らないんだよなぁ? これからはずっとずっと俺だけのものなんだよなぁ?」
とっても嬉しそうに何度もそうやって確認をとってくる。
それがなんだか可愛らしくて、思わず笑みを零しつつ、
「ふふっ、はい。そういうことになりますねぇ」
脳天気にそんな言葉を返したのだけれど。
「だったら、時間もたっぷりあることだし、気が済むまで可愛い菜々子のことを独り占めしてもいいんだよなぁ? 幸いなことに、さっきハウスキーパーにも菜々子が居るから食材の手配だけでいいと言ってあるから、二、三日は邪魔者は居ないし」
「////……いや、その」
なにやら怪しい雰囲気になってきて、今すぐ襲いかかってきそうな勢いの創さんを前に、私はあわあわすることしかできないでいる。
だって、愛梨さんがどこに居るのかサッパリ分からないのだから無理もない。