拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
#2 亀と御曹司と死神!?
目を開けると、とても懐かしい光景が広がっていた。
清潔感のある真っ白な壁紙が印象的な四角い病室。
ベッドの右側には大きな窓があって、そこから病院の裏側に等間隔に植えられた桜の木々がよく見える。
まだ四月にもなっていないはずなのに、桜の木は満開で、あの日と同じように、半分ほど開けられた窓からは、春のあたたかな風に煽られた桜の花弁が舞い込んでいる。
ベッドで横になっている私の元にまで花弁がひらひらと舞い降りてきて、そのうちのひとつが掌にはらりと舞い落ちた。
窓から射し込んでくる穏やかな陽光が反射していてとても綺麗だ。
その綺麗な薄桃色の花弁を間近で見ようと掌を引き寄せようとしたところで、身体のあちこちに鈍い痛みが走った。
……そしてそこで、桜の花弁も、懐かしい光景も、あたかも夢でも醒めるかのように見る影なく消え去ってしまっていて、後に残されたのは、殺風景な病室のベッドに横たわっている私と鈍い痛みだけだった。
ーーあぁ、そういえば、事故に遭ったんだっけ。
てことは、ここは運び込まれた病院なのだろう。で、助かったと言うことだ。
助かったのは良かったけれど、入院費も要るんだろうし、近々引っ越しだってしなくちゃいけないのに……。大丈夫かな?
身体の痛みなんかよりも、重くのしかかってくる現実に、どうしたものかと頭を抱えることしかできないでいた。