拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
ただでさえ真っ赤になっていたというのに、赤くなりすぎて火でも噴きそうだ。
耐えかねた私が調理台に手を突いて、背後の桜小路さんに向けて頭突きを繰り出すと、確かな手応えがあった。ハッとし振り返ると。
「ーーッ!?」
おそらく顎にヒットしたんだろう桜小路さんが顎に手を当て、苦悶に満ちた表情で私のことを睨んできた。
その数秒遅れで、怒った声を張り上げた。
「なにすんだッ。痛いだろうがッ!」
その声で、ありえない羞恥に襲われてたはずがどっかに吹き飛んで、あたかもスイッチでも切り替わるように、無性に腹立たしくなってきて。
「処女なんて言うからですよッ! そうやって、二十歳過ぎて処女だとおかしいっていう、そんな偏見、持たない方が良いですよッ!」
気づいたときには、言い逃げるようにして私はキッチンから飛び出してしまっていた。
「おいっ! どこに行く気だッ?!」
すぐに桜小路さんの声が追いかけてきて、逃げ出すと思われるのが癪で、私はヤケクソ気味に、「カメ吉ルーム!」と放っていた。
そしてそのまま、カメ吉のために最適な湿度と温度管理がなされている、通称”カメ吉ルーム“に一目散に向かおうとしていた私は、キッチンを出たところで菱沼さんと遭遇し。
「おい、チビ、走るなッ!」
「すっ、すみません。カメ吉にエサあげてきます。行ってらっしゃい」
またまたお叱りを食らって、本日二度目のぺこりをしてから今度こそカメ吉ルームへと向かった。