拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
#10 王子様の目にも涙!?
いくら上出来だったとは言え、桜小路さんの口に合わなければ意味がない。
生まれも育ちも平々凡々の一般庶民の私とは違い、おそらくかなり舌が肥えているだろうから、果たして満足してもらえるかどうか。
ドキドキしながら見守っているなか、桜小路さんはなんとも上品な流れるような所作で、まずはフォークにとったシフォンケーキを一口頬張った。
その刹那、やっぱり口に合わなかったのか、イケメンフェイスを強張らせて、眉間には深い皺まで寄せてしまっている。
その様子に落胆した私が肩をガックリと落としているところに、家事がちゃんとできているかのチャックを終えたらしい菱沼さんが戻ってきた。
そしてすぐに、桜小路さんの異変にいちはやく気づいたらしい菱沼さんがやけに慌てた様子で、
「創様!? 大丈夫ですか? もしや体調でも」
桜小路さんの元まで駆け寄った姿に、何事かと、項垂れていた私が顔を上げると、そこには、涼し気な切れ長の瞳から綺麗な一雫の涙を零す桜小路さんのイケメンフェイスが待っていた。
――泣くほど、美味しくなかったってこと?
あまりのショックに、私はただただ突っ立って、ふたりの様子を窺っていることしかできないでいる。
「……あっ、いや、大丈夫だ」
「そうですか、こちらをどうぞ」
体調が悪かったのでもないようで、やっぱりお気に召さなかったのかと、再び落胆しかけたところに、菱沼さんに渡されたティッシュで涙を拭った桜小路さんがフォークに手を伸ばす姿が見えた。
お気に召さなかった訳ではないのかよく分からないが、まだ食べてくれるということらしい。